ノルディック複合(LH)、渡部暁斗選手の敗因は「オリンピックという特殊な大会」である
個人種目として初の金メダルが期待されたノルディック複合の渡部暁斗選手ですが、ラージヒル(LH)は前半のジャンプで首位に立つも、後半の距離で逆転を許して5位で終わりました。
「オリンピックという特殊な大会」が最大の敗因になったと言えるでしょう。また、競技のフォーマットも渡部暁斗選手には不利に働くことになりました。
1:ジャンプで首位に立つも、計算外だったドイツ勢の躍進
前半のジャンプを終えた時点での順位と(後半の距離に換算した)タイム差は以下のとおりです。
選手名 | 飛距離 | Pts | タイム差 | |
---|---|---|---|---|
1 | 渡部 暁斗 (JPN、走力:B) |
134.0 | 138.9 (風:-3.2) |
ー |
2 | J・リーベル (NOR、走力:B-) |
139.0 | 138.6 (風:-12.5) |
+0:01 |
4 | フレンツェル (GER、走力:A) |
136.5 | 132.9 (風:-13.2) |
+0:24 |
5 | J・ルゼック (GER、走力:A) |
133.5 | 131.2 (風:-9.5) |
+0:31 |
6 | F・リースレ (GER、走力:A) |
130.5 | 130.3 (風:-4.0) |
+0:34 |
渡部選手は前評判どおりのジャンプを見せ、前半を首位で終えました。この点は高く評価されるべきものでしょう。
ただ、渡部選手が残した結果よりもドイツ勢が “最高の結果” を残していました。そのため、前半のジャンプを終えた段階でのインタビューで「ちょっと厳しい」と渡部選手が口にしていたのです。
2:後半戦・距離での各選手の思惑と狙い
後半戦の距離を迎える時点で、メダルが狙える位置にいた主要選手の思惑は次のようなものと言えるでしょう。
- 渡部暁斗
- 最良:リーベル選手と協調して逃げ切る
- 最悪:早い段階でドイツ勢に吸収される
- J・リーベル(1秒遅れ)
- 最良:渡部選手と逃げ切る
- 最悪:渡部選手に置き去りにされた上、ドイツ勢に抜かされる
- ドイツ勢3選手(24〜34秒遅れ)
- 最良:3人で協調し、トップの渡部選手を3周目までに吸収
- 最悪:協調体制が築けず、単独追走を強いられる
渡部選手は「リーベル選手と協調して逃げ切りたかった」のですが、上手く協調できず、結果的にドイツ勢に吸収されることになりました。
リーベル選手は「渡部選手と協調すれば、ゴールまで逃げ切れる」と判断すれば、協力体制を築いたでしょう。ただ、走力で劣ることを自他共に認識するリーベル選手が体力を消耗することは得策ではありません。そのため、「ドイツ勢に追いつかれるまでは渡部選手の背後に張り付く」との判断は想定内のものだったのです。
3:ドイツ勢は「走力がある3選手の協調体制」でトップを猛追
ドイツ勢が表彰台を独占できた理由は「走力を持った3選手が協調体制を築くことができたから」です。
これはW杯ではできない芸当です。個人戦の色合いが強いW杯では “選手個人の成績” が優先されやすいでしょう。しかし、オリンピックは国別対抗戦の度合いがW杯とは比較にならないほど強くなります。そのため、どの国も協調しやすい状況だったのです。
フレンツェル、ルゼック、リースレのドイツ勢3選手は「全員が渡部選手を上回る走力を持っている」という力関係でした。
つまり、最後のスプリントを渡部選手と同じ条件で迎えることができれば、3人とも表彰台に上がれる可能性があったのです。ドイツチームにとっては「最高の結果」ですし、“捨て駒” になる選手も発生しません。
3選手で協調すれば、(集団の)先頭で風除けになる時間は渡部選手の3分の1で済みます。それだけ体力を温存できる訳ですし、先頭集団の渡部選手とリーベル選手が牽制状態に入れば、一気にタイム差を縮めることができます。
「追いかけるドイツ勢がスタートの段階から優位だった」と言えるでしょう。
4:自国選手が有利になるようルール改正を働きかけるべき
ノルディック複合は「後半の距離では協調体制を築きやすい」という点があります。有力選手が多い強豪国はそれで良いのですが、日本は複数の有力選手を抱える状況にはならないことが多いため、ルール改正を働きかけるべきでしょう。
前半のジャンプでは協調体制を築くことは不可能な訳ですから、後半の距離も協調体制が築くことができない方式に変更するよう要求すれば良いのです。
具体的には「自転車ロードレースのタイムトライアルと同じ方式を採用すること」です。
本音は「風除けになる選手の有無がタイムに影響するのはおかしい」ですが、本音を誤魔化す “建前” が不可欠です。建前は「タイムの悪い選手から一定間隔でスタートし、すべての選手が大きな声援を受けるべき。暫定首位の選手の存在は映像での露出と競技人口増加につながる」というものにすべきでしょう。
欧米勢が自国選手が優位になるようルール改正を行ってきた歴史がある訳ですから、逆に日本勢が優位となるようなルール改正を働きかけるべきと言えるのではないでしょうか。