オリンピック中継で収支がマイナスになるのは放送局がぼったくられているだけではないのか

 韓国・ピョンチャン(平昌)で行われた冬季オリンピックで、中継を担った民放連の井上弘会長が「収支は赤字だった」と発言しています。

 井上会長は赤字の理由を「放映権の高騰」と述べていますが、放映権高騰を招いた原因はメディアにもあるのです。この点から目を背けるべきではないと言えるでしょう。

 

 ◆記者:ピョンチャンは時差がなく、放送には適していたと思うが、それでも赤字になった要因は何か。

 ◆井上会長:一番の要因はメディア権料の高騰だ。IOCやFIFAは日本に比べてCM料金が高いアメリカの金額を基準に交渉してくるので、日本のマーケットの現状とは合わない部分があると思う。

 赤字額は公表されていませんが、ピョンチャン冬季五輪の中継による収支はマイナスだったとのこと。

 その理由を井上会長は「アメリカ基準の CM 広告を基準に交渉してくるから」と述べています。ですが、民放連を含むジャパンコンソーシアムが提示された放映権料で合意しているのです。

 このことから目を背けるべきではないと言えるでしょう。

 

1:オリンピックの放映権料の推移

 2006年に行われたトリノ冬季オリンピック以降の放映権料は下表のように推移しています。

表1:オリンピックでの放映権
冬季五輪 夏季五輪
大会 放映権料 大会 放映権料
トリノ
(2006年)
45億円 北京
(2008年)
198億円
バンクーバー
(2010年)
325億円 * ロンドン
(2012年)
325億円 *
ソチ
(2014年)
360億円 ** リオ
(2016年)
360億円 **
平昌
(2018年)
660億円 *** 東京
(2020年)
660億円 ***
北京
(2022年)
440億円 **** パリ
(2024年)
440億円 ****

 北京夏季オリンピック(2008年)までは大会ごとに放映権料が決められていましたが、2010年のトリノ冬季オリンピック以降は『冬と夏の大会を1セット』という形で放映権料が決定する方式に変更されました。

 これにより、放映権を売る側である IOC は「夏の五輪を中継したいなら、冬の五輪も合わせた価格が不可欠」と強気の交渉が可能になったのです。

 

2:ピョンチャン冬季五輪の放映権料は80億円前後

 おそらく、ピョンチャン冬季オリンピックの放映権料は80億円前後でしょう。2020年は東京で夏季オリンピックが開催されることで “プレミア価格” が上乗せされていますが、それを除けば、『ピョンチャン+東京』の価格は400億円ほどになっていたと考えられるからです。

 NHK と民放の負担割合は「7:3」ですので、民放が負担しているのは約25億円と推測できます

 「収支が赤字だった」と言うことは「民放が(関連番組を含む)オリンピック中継を放映した際の広告スポンサーからの収入が放映権料を下回った」ということです。

 これは「割高な放映権料を払ったのか」、「妥当な放映権料だったが、テレビ局が魅力的なコンテンツを作れなかったのか」によって対応が変わっています。

 民放連は「放映権料が高い」と主張しているのですから、放映権料を引き下げる交渉をすることが必須です。「絶対に放映権は獲得する」と足元を見られている現状を改善する必要があると言えるでしょう。

 

3:「視聴者・番組スポンサーに価格転嫁できる」と慢心しているのではないか

 シビアな経営をしているのであれば、元の取れない放映権料を支払うという経営判断を下すようなことはしないでしょう。

 しかし、実際には「放映権料が高騰している」と文句は言うものの、引き下げに向けた動きはそれほど活発には行っていません。これは「視聴者や番組スポンサーに価格転嫁できる」と他人事のように捉えている可能性があります。

 確かに、情報伝達がテレビに限定されていれば、可能だったと言えるでしょう。

 ネットが一般になった現代では「選手が自身の SNS アカウントなどで情報を発信する」ことが当たり前なのです。既存メディアが放送時間やスペースに制約がある中、ネットは基本的に無制限です。そのため、有名なスポーツチームはネットで独自コンテンツを配信する傾向を強めているのです。

 当然、4年に1度の大会より、日常的に露出度の高いチーム・選手のスポンサーに名乗りを上げることになるでしょう。「コンテンツの魅力を伝えられているか」を日々追求した上で、“ふっかけられた高額な放映権料のコンテンツ” は拒否する判断も必要と言えるのではないでしょうか。