大幅値引きとなった根拠は「小学校開校日が確定した後に浮上したゴミ問題」だと『(書き換え前の)森友文書』が示している

 “安倍首相の収賄疑惑” として朝日新聞がスクープした『森友問題』ですが、疑惑の内容が完全に変わっている状況です。

 「土地取引の経緯」に安倍首相(や安倍昭恵氏)は関係ありませんし、「文書書き換え」についても同様です。土地価格が値引きされた理由は別に存在する訳ですから、その点を整理しておく必要があると言えるでしょう。

 

1:土地取得をめぐる森友学園の動き

 大阪・豊中市の国有地をめぐる森友学園の動きを時系列で整理すると、以下のようになります。

画像:森友学園の土地取得をめぐる時系列

 まず、当初の契約は『定期借地+売買予約』でした。その後、小学校の建設予定地で「新たなゴミ(= 聞いていないゴミ)が発見された」と森友側から申告があり、『売買契約』に変更されたという経緯があります。

 その際、大幅な値引きが行われたのですが、近畿財務局や大阪航空局は「選択肢が極めて限定されていた」という点に留意する必要があると言えるでしょう。

 

2:「大阪府私学審議会が認可済」という極めて強力なカード

 森友学園が私立小学校を設立しようとした件は大阪府私立小学校審議会が「認可適当と認める」との答申を2015年1月末に決定したことが公開資料(PDF)から確認できます。

 つまり、この小学校は2017年4月に開校する予定で準備が進むことが決定しました。

 この決定が後に近畿財務局や大阪航空局との交渉において、『強力なカード』に化けることになるのです。このことを予測することはほぼ不可能だったと言えるでしょう。

 

3:開校予定日まで1年と迫った中で「ゴミ問題」が浮上し、行政側の選択肢が限定される

 状況が大きく変わったのは2016年3月に籠池氏が「新たなゴミが見つかった」と主張してからです。

 土地取得予定者(= 森友学園)が “土地の保有者(=大阪航空局)の落ち度” を指摘する事態が起きたのです。ただ、速やかに動くことが難しかった上、『開校予定日』という足かせが行政側に重くのしかかることになりました。

  • 大阪航空局にゴミ処理用の予算はない
  • 森友学園の主張内容を確認するにも時間を要する
  • 『開校予定日』に遅れると、損害賠償訴訟では国の敗訴が確定的

 土地の所有者である大阪航空局(国交省管轄)が予算を持っていなかったことが致命的です。「ゴミ撤去費用」を捻出できませんし、「森友学園側の主張が正しいのかを裏付ける調査を行う予算」を付けることも困難だったと言えるでしょう。

 また、私立小学校の開校予定日まで残り1年です。公共事業を随意契約で行うことはハードルが高いですし、一般入札を行うとなれば、それだけ時間を要することになります。

 『開校予定日』が決まっている上、予算の持たない地方局ができることは「瑕疵担保責任を免責する代わりに、大幅な値引きをする」ぐらいだったのです。

 

4:会計監査院が「適切」と評する値段では行政訴訟に持ち込まれていた可能性が大

 学校経営が一般企業と大きく異なるのは「始業時期が年に1度だけ」という点でしょう。

 つまり、森友学園のケースでは「ゴミ処理がスムーズに進行せず、開校予定日に校舎の建設などが間に合わなかった」という状況に陥れば、損害賠償訴訟で国(=行政側)が敗訴することは確定的だった訳です。

 “新たなゴミの存在” を指摘された大阪航空局は「調査費を予算として計上し、速やかに調査を実施する会社を募った。また、発見されたゴミについての撤去作業も行った」と認定されることが敗訴を免れる唯一の道でした。

 ただ、そもそも予算がなかったですから、行政訴訟に持ち込まれる事態になれば国は敗訴していたでしょう。

 会計監査院が納得する値引き額に交渉する道はありましたが、その条件を飲むかは森友学園側の価値観次第です。つまり、「その値下げでは到底納得できない。『開校予定日』に間に合わないから損害賠償を起こさせてもらう」と森友側に行動を起こされてしまうと、国に損失が生じる可能性が現実にあったのです。

 

 籠池氏が “タフネゴシエーター” であったことは否定できないでしょう。後出しじゃんけんで「対応が適切ではなかった」ということは簡単です。

 行政側が速やかに動くことができなかった事情があったことが問題なのですから、同様の事態に陥らないようにすることが再発防止策になると言えるのではないでしょうか。