日報問題:部隊の行動が筒抜けになる「日報」は米軍の公開ルールに準拠すべきだ

 16日に自衛隊のイラク派遣の日報が公表されました。

 マスコミは「戦闘」の文字が日報にあったことを取り上げ、“言葉遊び” をしていますが、報道が国防する寄与する流れは皆無に近い状態です。軍事機密に該当する『日報』を行政文書のような扱いで気軽に公開することは自衛隊の活動に悪影響を与えているという現実に目を向ける必要があるでしょう。

 

『戦闘地域』への自衛隊派遣や、『戦闘行為』に自衛隊が巻き込まれることが問題

 自衛隊のイラク派遣は「イラク特措法」により、法的根拠が与えられました。つまり、この法律で『戦闘行為』と定義された行為に自衛隊が巻き込まれていたり、『戦闘地域』に派遣されていたのであれば、大きな問題と言えるのです。

  • 武力紛争:国家又は国家に準ずる組織の間において生ずる武力を用いた争い(PKO法
  • 戦闘行為:国際的な『武力紛争』の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為
  • 非戦闘地域:現に『戦闘行為』が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて『戦闘行為』が行われることない認められる地域

 「国や国に準じた組織の間で発生する1国内の問題に留まらない武力を用いた争い」が『戦闘行為』だと定義付けされているのです。

 宿営地への迫撃砲の着弾など 『危険な行為』と隣り合わせだったことは間違いありません。ただ、「イラク特措法の『戦闘行為』に該当する」とは言えないため、メディアの取り上げる『戦闘』は “言葉遊び” になってしまっているのです。

 

部隊の行動が丸わかりになる『日報』を公開する行為は自衛隊員を危険にさらすことと同じ

 自衛隊の日報を「行政文書」と同じ扱いにしていることが問題と言えるでしょう。なぜなら、日報に記載されている内容は軍事機密そのものだからです。

 4月12日に行われた衆院・安全保障委員会で陸上自衛官の経歴を持つ中谷真一議員(自民党)が懸念を示しています。

 警備要領・弾薬数・隊長や副隊長の分単位での行動予定表・週間の業務予定などが『日報』に書かれているのです。これらの情報が公開されることで、間違いなく自衛官が業務に当たる際の危険度が上昇するでしょう。

 相手(≒ 敵対する武装勢力)に自分たちの手の内を明かしていることと同じだからです。

 警察や警備会社が「警備体制についての情報」を公開するでしょうか。配備の基本形が判明すれば、「どのような陽動作戦を講じると最も効果的であるか」を事前に想定・準備を綿密に行ってから実行に移すことが可能になるのです。

 安易な情報公開がどれだけ自衛隊員や共同で任務に当たる諸外国の軍隊・兵士に迷惑をかけているのかを自覚しなければなりません。

 

『日報』の公開基準はアメリカ軍の規則に準拠すべき

 自衛隊の動きだけでなく、共同で任務に当たる可能性がある多国籍軍の動きまで丸わかりになってしまう『日報』は「軍事機密」として扱うべき代物です。

 行政文書のような感覚で、公開要請に簡単に応じることは自衛隊の機密保持能力を疑われる要因となります。その結果、集団的自衛権の行使に支障が出る恐れがある訳ですから、現状の運用体制を見直す必要があると言えるでしょう。

 そのため、『日報』の公開基準はアメリカ軍の公開規則に準拠する形に変更すべきです。

 理由は日本が提携している軍事的な同盟は『日米同盟』だけであり、軍の運用体制という点で歩調を合わせる必要がある国がアメリカだからです。

 共同で任務に当たっているパートナーが機密情報を漏洩しているようでは信頼関係が損なわれて当然です。政治家はこの懸念を早急に払拭するための立法措置を採るために動く必要があると言えるはずです。

 

政治家の都合で自衛隊を行政組織扱いしたり、軍隊扱いする欺瞞は止めるべきだ

 まず、国会議員は「自分は自衛隊を行政組織として見ているのか、それとも軍組織として見ているのか」を明確にすることが先決です。

 現状では政治家の身勝手な都合で自衛隊が「行政組織」になったり、「軍隊」になったりと “立ち位置” が容易に変節しているからです。これほど矛盾を含めた組織はないと言えるでしょう。

行政組織の扱い 軍隊の扱い
  • 自衛隊員=行政職員
  • 『日報』は行政文書
    → 公開は現行規則でOK
  • 「シビリアンコントロール(=文民統制)」による制約や批判は無意味
    → 自衛隊員も “文民” だから
  • 自衛隊員=軍人
  • 『日報』は軍事機密
    → 公開の規則は要改善
  • 「文民統制」は必須
  • 「軍法会議」の制度がない中での海外派遣は問題

 シビリアンコントロール(= 文民統制)は軍隊に対する統治を示す言葉です。

 普段は「戦力ではない」と主張しておきながら、自衛隊から反政権的な言動を批判する言論が出ると「シビリアンコントロールが〜」などと叫び、自衛隊を軍隊扱いするのです。これほどの矛盾はないと言えるでしょう。

 「シビリアンコントロール」を理由に自衛隊を批判するなら、自衛隊の『日報』は軍事機密として扱い、適切な対処をしなければなりません。政治家の二枚舌で「行政組織」や「軍隊」を行ったり来たりするような扱いをして良い組織ではないのです。

 

 政治家もマスコミも、自衛隊が抱える矛盾に対して正面から取り組まなければならない時期が訪れたと言えるのではないでしょうか。