『通信の秘密』はどこへ?NTT が海賊版サイトにブロッキング措置を実施すると発表

 漫画やアニメを無断で公開している『海賊版ウェブサイト』に対し、NTT が “自主的に” ブロッキング措置を行うことを発表したと NHK が報じています。

 法的根拠のない中で、政府からの「要望」を受けてブロッキングに踏み切ることは問題です。なぜなら、ブロッキングを行うには通信の内容を確認することが不可欠であり、それによって憲法で保証された「通信の秘密」を侵害することになるからです。

 

 サイトを閲覧できないようにする「ブロッキング」の措置を民間の事業者が自主的に行うのが適当だとしています。

 これを受けてNTTは、インターネットに接続する事業を手がけるグループの3社が準備が整いしだいこの3つのサイトを対象にブロッキングの措置を取ることを決めたと発表しました。

 (中略)

 今回の措置についてNTTは、法制度が整備されるまでの短期的なものだとしていて、「コンテンツ事業者の団体からの要請もあって決めた」とコメントしています。

 ブロッキングが問題となるのは憲法第21条2で「通信の秘密は、これを侵してはならない」と定められているからです。

 「憲法が重要」と主張する野党が沈黙を保っていることは大きな問題と言えるでしょう。「化けの皮が剥がれ落ちた」と批判・非難されても、文句は言えないはずです。

 

通信事業者がブロッキングをするには「通信の秘密」を侵害しなければならない

 通信事業者がブロッキング措置を講じることは技術的に可能です。ただ、憲法で『通信の秘密』が保証されているため、実施に踏み切っていなかったという理由があるのです。

画像:通信の秘密と検閲

 NTT は「コンテンツ事業者からの要請」をブロッキング措置の理由としてあげていますが、「通信の秘密を侵す」という『法的リスク』をあまりに軽視しすぎと言えるでしょう。

 

民間の通信大手が「通信内容の検閲・遮断を法的根拠がない状況下で実施する」という異常事態

 憲法で『通信の秘密』が保証されていますが、通信を行う当事者が「秘密にする必要はない」と個別に合意していればブロッキングすることに対する法的な問題は生じません

 しかし、「著作物に対する対価を払いたくない」と考える人物が海賊版ウェブサイトへのアクセス履歴の公開に応じることはないでしょう。そのため、「『通信の秘密』に対する侵害行為が違法ではないと言えるだけの事由」が存在するかがポイントになります。

  1. 正当行為
  2. 正当防衛
  3. 緊急避難

 通信事業者がブロッキングを敢行した場合、すべての通信が審査対象となり、圧倒的多数の一般ユーザーの『通信の秘密』が侵害されることになります。そのため、「正当行為」や「正当防衛」が認められる状況と言えず、「緊急避難」に該当するかが争点になります。

 「緊急避難」は児童ポルノ問題で利用され、実際にブロッキングを実施する根拠となりました。ただ、その時でも法的根拠が怪しい状況であることは覚えておく必要があるでしょう。

 

「緊急避難」の適用条件

 『緊急避難』は刑法37条で定義されており、次の3点が要素となっています。

  • 現在の危機
  • 補充性:他に侵害性の少ない手段が存在しないこと
  • 法益権衡:生じた損害 ≦ 避けようとした損害

 児童ポルノの場合は「児童ポルノに関する情報の削除」や「発信者の検挙」というブロッキングよりも侵害性の少ない選択肢があるため、補充性があると言えます。

 そのため、「児童ポルノに関する情報の削除」や「発信者の検挙」が難しい場合に限り、ブロッキング措置に正当性が生じると言えるでしょう。ただ、“児童の年齢” や “3号ポルノ” など場合によっては『法益権衡』が成り立たない可能性もある状況なのです。

 海賊版ウェブサイトで生じているのは「著作権侵害」や「知的財産権の侵害」でしょう。これが「児童ポルノと同等の危機が生じている」と言えるのかという点で疑問が残るところです。

 

 『立憲主義』を主張する野党は「法的根拠のない状態でブロッキング措置を要請した安倍政権」や「ブロッキングを表明した NTT」を批判しなければなりません。

 立法措置はありませんし、『ブロッキングリストの正当性』を誰も保証していないのです。「通信の検閲」と同じ行為が堂々と行われているのであり、“真っ当な政治” を掲げる政党であるなら、政府や NTT の姿勢が間違っていることを指摘する必要があると言えるのではないでしょうか。