韓国GM問題:労使交渉決裂による法定管理は免れるも、韓国政府との予断の許されない交渉は続く

 労使交渉の行方次第では法定管理(=事業撤退)となる恐れが強かった韓国 GM 問題ですが、土壇場で回避することになったと日経新聞が報じています。

 ただ、予断の許さない状況であることに変わりません。なぜなら、韓国政府(および韓国産業銀行)と GM 間での交渉が残っているからです。

 

 米ゼネラル・モーターズ(GM)の韓国法人、韓国GMは23日、労使交渉を実施し、赤字が続く経営の立て直しのため労使が歩み寄ることで暫定合意した。合意に伴い、韓国GMが同日夜に予定していた法定管理(日本の会社更生法に相当)申請に向けた取締役会決議は見送られた。破綻の危機はひとまず回避され、今後は米GMと韓国政府との交渉に焦点が移る。

 23日に期限が設けられていたのは労使交渉(=経営陣と労働者側の交渉)です。

 この交渉では経営陣が提示していた条件を労働組合が丸飲みに近い形で受け入れたことで合意に達しました。「労組内での承認」を経ることが必要ですが、ここで覆る見通しはゼロに近いため、問題はないと思われます。

 次の段階は「韓国政府や(株主の一員でもある)韓国産業銀行が GM 側の要求する『再建時の負担』を容認するか」です。こちらの交渉がまとまらない場合も法定管理になる可能性があるだけに、予断は許されない状況に変わりないと言えるでしょう。

 

韓国産業銀行が要求する “虫のいい減資”

 韓国 GM は「債務を株式に転換する」とのことですので、デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap、DES:債務の株式化)を行うことになるでしょう。

 これにより、「財務体質は強化される」ことになりますが、株主にとっては「株式価値が希薄化される」という問題が生じることになります。この対応を歓迎できない韓国産業銀行が不満をもらしている状況となっています。

画像:韓国 GM の株式保有比率

 「減資をする」という点では両者(=GM 本社と韓国産業銀行)は合意しています。しかし、『債務の株式化(DES)』を行った後に「減資」を実施すると、韓国産業銀行の持ち株比率は 1% を下回ってしまうのです。

 韓国では持ち株比率が 15% を超えていれば、特別議決に対する拒否権を持つことができます。そのため、韓国産業銀行は「GM 本社の持ち株分だけが対象となる減資を行うべき」と要求しているのです。「この要求を GM 本社が飲むか」は不透明であり、問題は横たわったままなのです。

 

韓国 GM への優遇策を韓国政府や韓国産業銀行は行えるのか

 また、韓国 GM の問題では各ステークホルダーが相手に対し、「相応の負担」を要求しています。この部分に対する妥協点を見つけられるかも大きな問題と言えるでしょう。

  • 韓国 GM の要求
    • 韓国産業銀行に新規投資(約500億円以上)を実施すること
      → GM の新規投資予定額は約3000億円
    • 韓国政府にプピョン(富平)とチャンウォン(昌原)を『外国人投資地域』に指定すること
  • 韓国産業銀行(≒ 韓国政府)の要求
    1. 『債務の株式化(DES)』を行った後、GM 保有の株式だけを対象に減資を実施
    2. 『1』を GM が実施する場合に限り、新規投資要求に応じる

 韓国政府の最優先事項は「特別議決における拒否権を保持し続けること」です。特別議決の対象が「会社の解散・合併、事業譲渡、資本の減少」といった会社経営に大きな影響を与えるものですから、拒否権は是が非でも確保しておきたいものなのです。

 仮に GM が「韓国 GM を閉鎖する」と提案しても、株式の 15% を持っていれば拒否権を行使できます。しかし、DES 後に発行済の株式を均等に減資すると、韓国産業銀行の持ち株比率が 1% を下回ることになり、拒否権が消滅するので揉めるという状況になっているのです。

 GM の主張は「特別議決での拒否権を持ちたいなら、税制優遇などの形で恩恵を保障しろ」というものになります。現在の経営環境で巨額赤字を計上した訳ですから、「現状を維持することによる経営的なメリットを見出すことは難しい」という現実を押さえておく必要があると言えるでしょう。

 

 製造業は雇用人数が極めて多い職種であり、製造拠点を国外に移されるようなことが生じると直接雇用されている従業員以外にも影響が波及することになります。

 下請けはもちろんのこと、直接雇用されている従業員の消費活動を対象にしたビジネスをしている企業・個人にまで影響が生じるのです。

 “儲けられない環境” でビジネスを営むことを企業に強いれば、それは必ず雇用問題として政府や消費者に跳ね返ってくるという現実は絶対に忘れてはならないことだと言えるのではないでしょうか。