イタリアの連立交渉が頓挫、再選挙の可能性に現実味

 イタリアで2018年3月4日に行われた総選挙では『5つ星運動』が “単独政党としての議会第1党” になりました。

 ただ、議会過半数を獲得した政党または会派が存在しなかったため、連立交渉が行われていたのですが、「交渉が決裂した」と BBC が報じています。選挙後に新たな政権が発足しないというゴタゴタ感は厳しいものがあると言えるでしょう。

 

 Italy's coalition-building talks have failed, leaving the country facing fresh elections or a neutral caretaker government until the end of the year.

 President Sergio Mattarella said on Monday that those were the only two options left after a third round of negotiations were unsuccessful.

 イタリアには首相と大統領が存在します。ただ、ドイツと同様に大統領は “名誉職” という扱いで、政治のトップとしての役割は首相が有しています。

 首相は「議会多数派を形成する政党または会派のトップ」が務めるのですが、どの政党もどの会派も議会過半数を超える議席を有していないため、“宙づり” 状態が発生する事態となりました。

 

イタリア議会(下院)の議席数(2018年3月の総選挙後)

 2018年3月に行われた総選挙でイタリアの議会下院の議席数は以下のようになりました。

表:イタリア議会・下院の議席数(2018年総選挙後)
政党・会派 得票率 議席数



同盟(旧・北部同盟) 17.37% 124
フォルツァ・イタリア 14.01% 106
イタリアの同胞 4.35% 31
ノイ・コン・イタリア 1.30% 4
合計 37.0% 265
5つ星運動 32.7% 227



民主党 18.72% 112
ピウ・ヨーロッパ 2.55% 3
インシエメ 0.60% 1
シビカ・ポポラーレ 0.54% 2
トレント自治運動 0.41% 4
合計 22.9% 122
自由と平等 3.38% 14

 政党別では『5つ星運動』がトップ(約 33% の得票率)、会派別では『中道右派連合』がトップ(同 37%)になりました。

 そのため、政権発足には「連立政権の樹立」が必須となったのですが、連立交渉がまとまらず、決裂することになったのです。

 

どの政党・会派も政権発足に向けた譲歩はせず、連立交渉は決裂

 BBC によりますと、(議会第1党の)『5つ星運動』が連立樹立に向けた交渉を行ったものの、いずれも不調に終わったとのことです。

  • 『5つ星運動』x『中道右派連合』= 決裂
  • 『5つ星運動』x『民主党』= 決裂

 「反 EU」や「ポピュリズム政党」として知られる『5つ星運動』ですが、今回の総選挙ではどの政党も “ばら撒き” と批判される公約を掲げている状態でした。

 そのため、公約を撤回することは有権者に対する裏切りになる訳ですから、「撤回したくてもできない」という事情も(連立交渉に)多少は影響したと予想されます。

 なぜなら、連立交渉が不調に終われば、遅かれ早かれ総選挙が行われるからです。その際、「政権入りのために総選挙で掲げた公約をあっさり撤回した」と有権者が記憶した状態で選挙を戦うことは極めてマイナスな訳ですから、譲歩するメリットはほとんどない状況と言えるでしょう。

 

イタリアの今後

 連立交渉が決裂したことを受け、セルジオ・マッタレッラ大統領が各政党に対し、「中立政権を樹立するか、再選挙を行うかの態度を示して欲しい」と表明しました。これにより、選択肢が2つに限定されることになりました。

  1. 中立政権を樹立
    • 大統領が選ぶ政策専門家で形成
    • 2019年度の予算を組むことが最大の目的
    • 中立政権は2019年初頭の総選挙を前に解散
  2. 中立政権の樹立を拒否
    • 2018年7月か秋に総選挙

 「現状の議席配分では政権発足が不可能なのだから、総選挙を行い、議席配分を変更させよう」という狙いが根底にはあります。つまり、「そのための選挙をいつ行うのか」を各政党が意思表示して欲しいと呼びかけられたのです。

 幸か不幸か、イタリアはサッカーW杯の出場権を逃しました。そのため、7月に選挙が行われることになっても、国民の関心が向かないという事態は起こりづらいという状況です。

 

 直近の総選挙で躍進した『5つ星運動』や『同盟』が「中立政権の樹立」に対する支持を(現時点では)示していませんので、年内の再選挙は十分にあり得ると言えるでしょう。

 “決められない政治” は関係性の高くない外国で起きている分には「やれやれ」という程度で済みます。しかし、自国や関係の強い国、周辺国に影響を与える国で起きると「冗談では済まない」というレベルになるのです。

 日本の悪しき政治習慣であった “決められない政治” を懐かしみ、そのような状態に逆戻りをさせようとする政党やメディアが発する主張内容には大きな注意を払う必要があると言えるのではないでしょうか。