大川小の津波避難訴訟:最高裁は原告敗訴の逆転判決を下すべき

 東日本大震災の津波で児童・教員が犠牲となった大川小学校の対応が問われていた裁判は地裁・高裁と原告勝訴の判決が下されました。

 これに対し、大川小学校を設置する石巻市(宮城県)は最高裁への上告を議会で可決したと NHK が報じています。本件は「原告敗訴」となるべきでしょう。なぜなら、地方自治体が問われる責任範囲を大きく逸脱した判決となっているからです。

 

 東日本大震災の津波で犠牲になった宮城県石巻市の大川小学校の児童の遺族が訴えた裁判で、石巻市は、学校の事前の防災対策の不備などを認めた2審の判決を不服として最高裁判所に上告するための議案を臨時議会に諮り、賛成多数で可決されました。

 判決で問われているのは「地震直後の避難対応が適切であったか」です。

 地裁および高裁は「避難対応が適切ではなかった」との判決を下していますが、これは “言いがかり” に近いものがあるでしょう。なぜなら、『事後に起きる出来事』を知った上で判決を下したと考えられる節があるからです。

 

現場の教員が責められる理由は存在しない

 まず、大川小学校に勤務していた当時の現場教員が責められる理由は皆無です。

  • 大川小学校は津波の浸水想定区域外
  • 津波時の避難所として、大川小学校が指定されていた

 教員は「生徒を教育するプロ」であり、「自然災害の知識に長けた人物」ではありません

 『津波時の避難所として指定された場所』を自らの判断で “上書き” するには現実には困難です。なぜなら、「行政府の決定を反故する(= 服務規程に違反する)」ことと同義であり、懲戒処分の対象にもなり得るからです。

 「犠牲者が出た」という『事後の出来事』を理由に、遺族に配慮した判決を下すことは行政コストの増大を招く結果になるという問題点を見落とすべきではありません。

 

仙台地裁と仙台高裁による判決への疑問

 仙台地裁および仙台高裁が判決で触れた「防災体制の不備」については疑問が残ります。

仙台地裁
  • 石巻市の広報車が津波接近を告げ、高台避難を呼びかけるまでに津波襲来は予見できた
  • 学校の裏山に避難しなかったことは過失
    → 裏山が「安全な避難先」である保証は?
仙台高裁
  • 教員らはハザードマップの信頼性を独自に検討すべきだった
    → “防災の素人” である教員が検討?予算は?
  • 『宮城県沖地震』の揺れや津波で、北上川堤防は沈下・破損の危険性があった
  • 教師は地域住民よりもはるかに高い知識と経験が求められる
    → 知識と経験に見合った給与体系?
  • 「高台」を避難場所に設定していれば、すぐに避難可能で津波を回避できた
    → 避難先と経路の安全確認は?

 「『裏山』や『高台』に避難していれば助かった」という主張は後付けに過ぎません。

 『避難先』として指定されている場所から『異なる避難先』への移動を指示するのであれば、「避難経路と新たな避難先には危険がない」ということを確認されていることが必須です。

 「地震の揺れや津波で堤防が決壊する可能性」をリスクとして考慮することが要求されるなら、「地震の揺れで裏山が崩落する可能性」や「避難経路が地震の揺れや津波で使えない可能性」もリスクとして考慮されていなければならないのです。

 高裁までの判決は「遺族感情に都合の良い事実だけが抜き出されている状態」であり、この点は批判されるべきものと言えるでしょう。

 

「原告敗訴」か「大地震発生後は即時休校による責務免責」のどちらかだ

 教員に「自然災害への対策知識や知見」を要求するのであれば、文科省に働きかけを行い、教員免許を取得する際の必須事項にすることが解決策です。

 しかし、現状の教員免許に存在しない項目であるにもかかわらず、「地域住民よりもはるかに高い知識と経験が求められる」などと要求する仙台高裁の判決は “狂っている” と言わざるを得ません。

 これで原告の訴えが認められるなら、教育行政のコストは現在とは比較にならないほど高騰することでしょう。“教員能力と災害時の危機管理能力に長けた人材” を多数確保しなければならないのです。人件費は現状の 1.5〜2 倍になることを覚悟しなければなりません。

 また、今の状況では “後出しジャンケン” 的に教員・学校(または自治体)が責任を負わされつつあります。

 「学校管理下」を理由にした『言いがかり訴訟』を裁判所が認めるのであれば、「大地震発生後は即時休校」の判断を下し、「学校管理下ではない」という自衛策を講じる流れが生まれることでしょう。教員はそれだけ理不尽な状況に置かれているのです。

 

 専門性を持った大学教授でさえ、土木専門・気象専門と細分化しているのです。小学校の教員に「土木・気象・災害時の避難など複数項目に精通していること」を要求することが根本的に間違っているのです。

 最高裁は大川小津波訴訟に対しては原告敗訴の判決を下すべきですし、過剰業務が押し付けられている教員に対して「別の専門知識」を追加で要求するなどあり得ないことです。

 「無理が通れば道理引っ込む」という事態で不利益を被ることになるのは大多数の世間一般なのです。“非現実的な要求” を認めた地裁や高裁での判決は最高裁が訂正し、差し戻しを行うべきだと言えるのではないでしょうか。