トランプ大統領が米朝会談の中止を発表、北朝鮮の瀬戸際外交に陰りが生じる

 6月12日にシンガポールで開催が予定されていた米朝首脳会談のキャンセルがトランプ大統領から発表されたと NHK が報じています。

 北朝鮮とすれば、成功パターンであった瀬戸際外交が通用しなかった衝撃は大きいものと言えるでしょう。「対話路線の米韓朝3カ国」を持ち上げて来た識者やメディアが現状をどのように分析しているのかが注目点と言えるはずです。

 

 アメリカのトランプ大統領は、来月12日に東南アジアのシンガポールで開催を予定していた北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長との首脳会談について、今は適切ではないとして開催しない考えを明らかにしました。

 (中略)

 トランプ大統領は「会談を楽しみにしていたが、残念なことに、北朝鮮の最近の声明で示されている怒りや敵意を受けて、私は現時点でこの会談を開くことは適切ではないと感じている」として、今は適切な時期ではないとして首脳会談を開催しない考えを明らかにしました。

 発表された声明文は「中止」と記されています。つまり、「日程の再設定」の可能性は残されている状況ですが、北朝鮮が再設定をお願いする立場であり、状況が変わったと言えるでしょう。

 会談中止による日本政府への影響は皆無です。しかし、「日本政府だけが蚊帳の外」と批判してきた識者やマスコミのメンツは丸つぶれであり、彼らが今後どのような論説を展開するかが注目点です。

 

鈴置高史氏の『早読み 深読み 朝鮮半島』が最も有益な分析内容を含んだ解説記事

 朝鮮半島情勢ですが、元・日経新聞記者である鈴置高史氏が執筆する『早読み 深読み 朝鮮半島』が最も有益です。無料会員登録で過去記事をすべて読むことができますし、登録するだけの価値があると言えます。

 今年3月の時点で「ムン・ジェイン政権の “仲人口” (= 米朝双方に都合の良いことしか言わないこと)を懸念する論調」を指摘していますし、米朝会談が決定した後には3つの基本シナリオに提示し、どのシナリオが現実的に起きる可能性が高いのかを論評していました。

画像:鈴置氏が提示した3つのシナリオ

 トランプ大統領の要求に金正恩委員長が素直に応じれば、平和のうちに北朝鮮の核問題は解決に向かいます。シナリオ①です。

 ただ、北朝鮮が素直に核を放棄するとは考えにくい。金正恩委員長がリビア方式を拒否し、トランプ大統領が席を蹴る可能性が高い。

 『早読み 深読み 朝鮮半島』をチェックしている人なら、トランプ大統領の反応は想定内と言えるでしょう。しかし、多くの識者やメディアは韓国政府寄りのバイアスが強くかかっているため、ズレた論説を展開する結果になっているのです。

 

「米朝会談継続+段階的援助」で北朝鮮への間接支援を呼びかける識者やメディア

 『北朝鮮との対話』を主張する識者・政治家・メディアが一定の割合で存在していますが、彼らの行為は北朝鮮を利するものです。

 対話を通して様々な支援を行うも、北朝鮮が都度態度を翻し、核兵器や弾道ミサイルを開発する資金と時間を与える結果になったのです。対話重視派は「過去の失敗」に対する反省をしているのでしょうか。

 「核の脅威が高まって嬉しいのか」などと批判していますが、北朝鮮に核兵器を保持させる大きな要因を作ったのは『対話による譲歩推進派』なのです。トランプ大統領に責任転嫁するなど論外ですし、非核化を拒絶する北朝鮮の姿勢を黙認する理由を提示する必要があると言えるでしょう。

 約束を何度も反古にしてきた北朝鮮に “見返り” を与えるのは最後で良いのです。これまで裏切りを続けてきた北朝鮮が梯子を外されたことに逆ギレする資格はないということを忘れてはなりません。

 

「中間選挙惨敗を念頭においた時間稼ぎ戦略」も無意味なものに

 北朝鮮は「時間稼ぎ」をメインにおいていたことでしょう。そのため、従来どおりの “恫喝外交” に踏み切っていたものだと考えられるからです。

  • 北朝鮮は米朝会談を行っただけで成果
    → アメリカは会うだけでは成果ゼロ
  • アメリカは11月に中間選挙がある
    • 共和党が敗れれば、トランプ政権の求心力は低下
    • 対話路線の民主党が躍進しているため、妥協策が期待できる

 今年秋に予定されているアメリカ議会中間選挙で与党・共和党が敗れれば、トランプ政権の求心力は失われます。対話派である民主党の議席数が増える訳ですから、北朝鮮がその状況が起きる方に賭け、時間稼ぎに出ることは常套手段と言えるでしょう。

 なぜなら、ブッシュ政権時に成功体験があるからです。二匹目のドジョウ狙いですが、世界中のマスコミがトランプ大統領を批判しているのですから、誘惑は大きくなって当然です。ただ、首脳会談がキャンセルされたことで、事情が変わりました。

 無理をしてまで中間選挙前に首脳会談の日程を再設定する必要はなくなったのです。「アメリカが成果を手にすることができるのか」は不透明ですし、着地点も見出せない状況です。この状況で会談する価値はない訳ですから、アメリカ世論が事態をどれだけ冷静に見ているかが大きいと言えるでしょう。

 

 シンガポールでの首脳会談に向けた高官協議を無視し、核施設廃棄に専門家の立会いは認めず。挙句に外務次官がマイク・ペンス副大統領を「愚かやマヌケ」などと罵ったのです。

 これでは会談をキャンセルされても文句は言えません。会談に応じてくれるのは日本政府のような “超お人好し” ぐらいでしょう。

 メンツより実利重視の色合いが強いトランプ大統領に従来の外交戦術が通用する見込みは極めて低いと想定しておかなければなりません。むしろ、トランプ大統領がキム・ジョンウン(金正恩)委員長のメンツを利用した “瀬戸際外交” で攻勢を強めていると言えるのではないでしょうか。