ミンダナオ島でイスラム系住民による自治政府設立をフィリピン政府が容認、和平に向けた着実な1歩を踏み出す

 約1年前、フィリピン・ミンダナオ島で IS を支持するイスラム系武装勢力と政府の治安部隊が戦闘となり、ドゥテルテ大統領の来日がキャンセルされる事態が発生しました。

 その後、戦闘は終結。NHK によりますと、フィリピン議会が「イスラム系住民による自治政府設立」を認める法案を可決したとのことです。これにより、和平に向けた1歩が踏み出されたと言えるでしょう。

 

 フィリピンのミンダナオ島で40年以上にわたって続く政府とイスラム武装組織との紛争を終わらせるため、フィリピンの議会は島のイスラム系住民による自治政府の設立を定めた法案を可決し、ミンダナオ和平が実現に向けて動き始めました。

 (中略)

 フィリピン議会では、自治政府の設立について権限の範囲などの調整が進められてきましたが、下院が30日、法案を可決したのに続いて、上院も31日、全会一致で可決しました。

 フィリピン国民の多数派はキリスト系住民です。日本は宗教が “ごちゃ混ぜ” になった極めて例外的な価値観を持つ国で、宗教間対立を実感する機会はほとんどないと言えるでしょう。

 しかし、多くの国では『宗教的価値観』が根底にあるため、「異なる宗教の価値観を認める」ということが多様性には含まれていない場合があるという問題があるのです。これが紛争にまで発展する事態を招く原因にもなっているのです。

 

「自治政府の樹立」という約束が果たされたことは大きい

 2017年5月末にミンダナオ島(フィリピン)で IS を支持するイスラム系武装勢力と治安部隊による戦闘が激化。治安部隊が制圧し、2017年の年末を迎えた時点で「イスラム系住民による自治政府の樹立」で和平案がまとまっていた状態でした。

 それが自治政府に認める権限範囲の調整が終わり、法案が可決。「フィリピン政府とイスラム系住民の間による和平」が1歩前進することになったのです。

 今後の注目点は「イスラム系住民による自治政府が政権運営を軌道に乗せられるか」だと言えるでしょう。

 これに成功すれば、『自治政府』を設立した意味を国内外に示すことができます。逆に失敗すると、戦闘が勃発した前に逆戻りしてしまうリスクがあるだけに状況の確認をしておくべき点だからです。

 

『自治政府』の利点は「『中央政府』に外交・軍事を丸投げできること」

 国内に自治政府を抱えている国はヨーロッパなどを中心に存在しています。「少数民族が自治権を与えられる」という形がほとんどでしょう。

 自治政府の利点は「中央政府に外交や軍事を丸投げできること」です。

 外交や軍事は「国力の差」が如実に反映される分野です。小国であれば、それだけ発言力が乏しくなるため、周辺大国の意向次第で国家存亡の危機に面する事態が起きやすいという問題を抱えているのです。

 この厄介な問題を『中央政府』が汗をかき、解決のために奔走してくれることは『自治政府』にとっての大きな利点と言えるでしょう。なぜなら、自治政府内の経済政策や社会保障政策に注力できる余裕が生まれるため、住民を満足させられる可能性が高いからです。

 

イスラム金融から開発資金を引き出し、成長することが『ミンダナオの自治政府』には期待されている

 ミンダナオ島に樹立させるイスラム系住民による自治政府にとっての最優先事項は「財政予算の確保」でしょう。予算がなければ、政策を実行に移すことができないからです。

 もちろん、フィリピン政府が『自治政府』に対する支援はしてくれるはずです。しかし、『自治政府』を甘やかすレベルに達してしまうと国内の他地域から不満が噴出する事態を招くため、一定のラインを超えることは期待できません。

 そうなると、インフラや社会保障を整備するための予算が不足するという事態を招く恐れがあります。

 そのような事態を避けるためには、フィリピン国外からの投資を上手く呼び込むことが重要です。イスラム系住民による自治政府なのですから、イスラム金融を活かせば、資金を呼び込むことは可能でしょう。良いプランを描えば、ビジネスに関与したいと考える投資家は世界中にいるのです。

 『ミンダナオの自治政府』が政権運営で結果を残し、紛争和平のロールモデルになることができるのかに注目と言えるのではないでしょうか。