「試合状況に応じた適切なプレス方法を選択する能力」を持たないサッカー日本代表はヤバすぎないか

 西野朗監督が就任したサッカー日本代表ですが、一部の識者などは「ハリルホジッチには戦術がなかった」との批判を展開しています。

 批判の根拠となっているのは「プレスをかける位置の具体的な指示がなかった」とのことですが、この主張は筋違いと言えるでしょう。なぜなら、ハリルホジッチ前監督が “世界標準では極めて一般的な戦術の指示” を行っていたからです。

 

『デイリーサッカーニュース Foot!』での識者の発言

 4月30日に Jsports などで放送された『デイリーサッカーニュース Foot!』に出演した木崎伸也氏やミムラユウスケ氏はハリルホジッチ前監督に対し、次のような批判を行いました。

  • 選手は「戦術がない」と感じていた
  • 「プレスはどこから行くのか」と聞いても、「試合状況が決めるから」と答えなかった
  • 選手はみんな唖然としていた

 素人なら、「試合状況が決める」との回答に唖然とするでしょう。しかし、プロ(しかも代表選手)であるなら、ハリルホジッチ前監督の指示を理解しなければなりません

 なぜなら、明確な指示は出されていたからです。

 

「試合状況が決める」というハリルホジッチ前監督の真意

 ハリルホジッチ前監督は2017年11月に行われたベルギーとの親善試合の前日会見で、「プレスのかけ方」に対し、以下のように発言しています。

 ハイプレスをかけるのか、ミドルブロックを形成するのか、ローブロックにするのか。それは私が「ここで作りなさい」と決めることではなくて、ゲームの状況に合わせて作るものだ。つまりブロックは「ハイ」「ミドル」「ロー」と3つあるが、自分たちで決めることではなく、相手を見ながら状況によって形成する位置を決めるのだ。

 つまり、ハリルホジッチ前監督と日本代表選手の守備ブロックに対する考え方をまとめると以下のようになります。

  • ハリルホジッチ前監督が与えた指示
    • 相手の状況を見ながら、ブロック位置や手法を決定
    • 監督は「守備のカード」を授けるが、“カードの切り方” はピッチ上の選手たちが決定権を保有
  • (一部の)日本代表や識者が考える指示
    • (試合前や試合中の)監督からの指示で、ブロック位置や手法を決める

 ハリルホジッチ前監督は「守備の『応用力』を代表選手に求めた」と言えるでしょう。求められた内容はヨーロッパ各国リーグの上位に位置するクラブでは要求されて当然のレベルです。

 要するに、ハリルは「状況を分析した監督から出される指示を待つ選手」に対し、「相手を見ながら、状況を選手たち自身で判断し、的確な守備体系を選択せよ」と要求したのです。

 この要求を満たせなかったのは選手であり、ハリルホジッチ前監督ではありません。したがって、木崎伸也氏やミムラユウスケ氏が批判の矛先を向けなければならないのは日本代表の選手なのです。

 

野球で例えると、その “ヤバさ” が浮き彫りとなる

 野球は守備側がボールを持つという球技の中では特殊なスポーツです。ただ、「ボールを持つ方が主導権を握っている」という点はサッカーも同じだと言えるでしょう。

 例えば、投手・大谷翔平(エンゼルス)と対戦することになった『侍ジャパン』の監督が前日会見で以下の発言をすると、識者やメディアはどう反応するでしょうか。

 速球を狙うのか、スライダーを引きつけるのか、スプリットにするのか。それは私が「この球にしろ」と決めることではなくて、ゲームの状況に合わせて決めるものだ。つまり狙い球は「速球」「スライダー」「スプリット」と3つあるが、自分たちで決めることではなく、相手の出来を見ながら状況によって決めるのだ。

 おそらく、「何、当たり前のことを言ってんだ」という反応が大方でしょう。

 狙いを1つに絞れば、その球(= 例えば速球)が投じられた場合は高確率で対応できます。しかし、投手側が狙われている球種に気づけば、対策が講じられ、打者が後手に回ることになります。また、日によって投手の出来が異なるため、試合状況に応じて狙い球を決めることは当たり前なのです。

 試合後、『侍ジャパン』に選出された選手が「どの球種を何イニング目から狙っていくのかという指示が監督からなく、戦術はないも同然だった」と発言すれば、選手に批判が集まることでしょう。

 ところが、サッカーではどういう訳か選手ではなく、監督が嘲笑の対象となっているのです。マスコミやジャーナリストを名乗る有識者が選手を持ち上げ、監督に責任転嫁をしているのですから、成長が止まることは当然の結果なのです。

 

「試合序盤の勢い」を日本代表が持続できない理由

 格上の強豪国と対戦した場合、日本代表は「試合序盤の勢い」を失うことがほとんどです。前半15分過ぎから徐々に攻守の歯車の噛み合わせが悪くなり、ちぐはぐさが浮き彫りになる試合を記憶している人も多いことでしょう。

 なぜなら、強豪国は相手のやり方を見て、試合中にシステムや選手のポジションを微調整してくるからです。

 「システム変更」や「ポジション変更」なら、日本代表も事前に想定しているでしょう。しかし、「システム変更」や「ポジション変更」とは言い切れない “微妙な変更” を(繰り返し)行っているため、想定外の動きへの対処能力で劣る日本代表の勢いが削がれる結果になるのです。

 “守れるはずのシステム” で守り切れなければ、攻撃陣は守備陣への不満を溜め込むことは容易に想像できます。

  ピッチ上の選手たちが状況に応じた的確な判断力を持っていれば、個々の判断が組織として一致した結論を導き出せるでしょう。しかし、そのスタイルを拒絶した選手たちによって、ハリルホジッチ前監督は追い出されてしまいました。これでは前回大会と同じ失敗を繰り返すことになると考えられます。

 

 『ハイプレス』、『ミドルブロック』、『ローブロック』はいずれも一長一短のある守り方です。「1つを極める」というやり方もありますが、大方の相手にも通用するレベルにまで引き上げることは並大抵のことではありません。

 「非現実的な目標」を掲げて玉砕するより、現実的なアプローチ(=状況に合わせた的確な守備陣形を選択するというやり方)を採り、結果を残すことが重要と言えるのではないでしょうか。