メルケル首相自らが主導した難民政策により、政権が崩壊の危機を迎える

 ドイツ・メルケル政権が難民政策により、崩壊の危機を迎えています。

 日経新聞によりますと、今月末までに連立政権のパートナーである CSU を納得させる難民問題の解決策を提示できなければ、政権崩壊もあり得るとのこと。自業自得の面が非常に強いのですが、ドイツがどのような状況に陥っているのかを確認することにしましょう。

 

 欧州連合(EU)は24日、移民・難民問題への対応を協議する緊急の首脳会合をブリュッセルで開いた。関係国に開催を要請したのは、難民らの流入で閣内に深刻な対立を抱えるドイツのメルケル首相だ。6月末までに閣内の強硬派を説得する解決策を見いだせなければ、メルケル氏は政権崩壊の瀬戸際に立たされる。

 端的に述べると、「積極的な難民受け入れ」を表明したメルケル首相がドイツ国内に大量の難民が流入したことで、連立政権の基盤が大きく揺らいでいるということです。

 「難民受け入れ」の理想論ばかりを語り、「受け入れによる弊害」という現実論に基づく懸念を軽視したことで政権基盤が揺らぐ結果となったのです。明らかに自業自得と言えるでしょう。

 

“いいとこ取り” ができる立場で「キレイゴト」を発信したメルケル政権

 事の発端はメルケル首相が「ドイツは積極的に難民を受け入れる」と発言したことです。この発言を受け、ドイツに移住したい動機を持った人物が自称・難民の肩書きでヨーロッパに大量流入。『難民問題』が発生しました。

 なぜ、ドイツがこのような発言をしたかと言いますと、難民受け入れに対する以下のルールが EU には存在するからです。

  • 難民申請は EU 域内の最初に到達した国で行う
  • 難民認定後の生活保護は認定した国の責任

 要するに、「難民を積極的に受け入れよう」と主張して自らの道徳的欲求を満たし、難民受け入れに要する費用・労力は南欧諸国に負担させることができる状況で発せられていたのです。

 ところが、自称・難民が EU の規則を守らなかった上、リベラルがドイツ行きを難民に奨励。その結果、ドイツ国内にも難民問題が飛び火し、事態収集の見通しが立たなくなりました。

 

難民問題でメルケル首相を取り巻く3つの対立相手

 メルケル首相が厳しい立場に置かれている理由は難民問題で立場の異なる3つの対立相手がいることでしょう。

画像:ドイツを目指す自称・難民の主要ルート
  • 難民到着国(イタリア):到着国に負担を押し付けるのか
  • 難民通過国や東欧:ドイツが実施した政策の尻拭いなどあり得ない
  • ドイツ国内(CSU):EU域内の二次的移動を認めるな

 ドイツのメルケル首相が「難民を受け入れる」と発言したことで、自称・難民が EU 域内に流入。到着国・通過国・目的地のそれぞれで弊害を起こすことになりました。

 メルケル首相の “失政” による負担を押し付けられることになる訳ですから、反発が起きるのは当然のことです。リベラルが何を主張しようと、「なら、難民支援費用を用意せよ。それが話を聞くための前提条件だ」と言われることは目に見えています。

 

「ブレーメンの移民難民局での認知スキャンダル」はメルケル政権にとっての『パンドラの箱』

 ドイツ国内で難民への風当たりが強くなっている理由の1つは「難民認定の汚職」でしょう。WSJ が以下のように報じた事件です。

 州の検察当局はドイツ連邦移民難民局(BAMF)ブレーメン支局が処理した少なくとも1000人の難民申請について、職員や弁護士、通訳者が共謀して金銭と引き換えに認定を出した疑いで捜査を開始した。中には犯罪者やテロ容疑者も含まれていた可能性がある。これを受け連邦内務省は先週、同支局を一時閉鎖した。

 “本来保護されるべき難民” とは異なる人物が「金で難民資格を不正に取得していた」という事態が明らかになったのです。

 当然、政権の管理責任が問われる事態になりますし、反難民の姿勢を採る政党の勢いが増すことになるでしょう。

 「ドイツ北部にあるブレーメンでだけ、認定の不正が行われていた」という保証はないため、大量の難民が押し寄せたドイツ南部を地盤とする CSU がメルケル首相に厳しい注文を付けることは当然のことなのです。

 

『大連立』が成立した場合に想定された勝者と敗者の関係が鮮明になっただけ

 もし、メルケル首相が置かれた立場に頭を抱えているドイツ政治に関する有識者がいるとしたら、その人物の能力に疑念を抱くべきです。なぜなら、昨年末の時点と政治的スタンスは何も変わっていないからです。

画像:ドイツ連邦議会の連立交渉の行方

 CSU は「難民問題への対応」を当時から強く要求していました。『難民認定の不正』が発覚したにも関わらず、政権がその対応に消極的なら、強硬策に出ることは想定できたはずです。

  • 勝者候補
    • 『緑の党』:SPD に愛想を尽かした支持層の受け皿
    • 『自由民主党(FDP)』:CDU/CSU に不満を持つ支持層の受け皿(経済政策優先)
    • 『ドイツのための選択肢(AfD)』:難民問題対策優先
  • 敗者候補
    • 『キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)』
    • 『社会民主党(SPD)』

 大連立が成立した場合についての言及をした際、勝者と敗者を上記のように指摘しました。これが半年にも満たない期間で鮮明になっただけに過ぎません。特に、驚くようなことはないと言えるでしょう。

 CSU は「難民問題への対策」で成果を残し、敗者の烙印が押される前に鞍替えすることに奔走しているだけなのです。

 

 人道支援をするにしても、予算は不可欠です。自らが予算拠出するのではなく、他人に負担を押し付けているのですから、妥協点を見出すことすらできない状況に陥っていることを忘れてはなりません。

 「難民受け入れに好意的な発言をする人物・団体がどれだけの数の難民を実際に受け入れているのか」という視点は極めて重要だと言えるのではないでしょうか。