倉敷市真備町に大きな洪水被害を引き起こした小田川の治水対策はどのような状況だったのか

 西日本の各地を襲った大雨で岡山県倉敷市真備町では小田川の堤防が決壊し、大きな被害が発生しました。

 該当の地域は「治水の必要性」が指摘されており、そのための工事が開始される予定となっていました。被害を軽減できた可能性もあっただけに、治水対策に関する時系列を確認しておく必要はあると言えるでしょう。

 

小田川(および高梁川)の治水事業に関する時系列

 小田川の治水事業に対する時系列は下表のとおりです。

1997年4月 柳井原貯水池を堰として利用する『高梁川総合開発事業』が着手
2002年12月
(小泉内閣)
水道需要の低下などを理由に『高梁川総合開発事業』の中止が決定。ただ、「高梁川並びに小田川の治水対策は必要」との今後の方針が定まる
2007年8月
(第1次安倍内閣)
『高梁川水系河川整備基本方針』が策定される
2007年11月
(福田内閣)
国交省が第1回『明日の高梁川を語る会』で「柳井原貯水池を利用した小田川合流点付替え案」を公表。共産党倉敷市議団が「地元の反対」を理由に反対運動を始める
2010年10月
(菅内閣)
『高梁川水系河川整備計画』が策定される
2014年
(第2次安倍内閣)
国交省が事業を予算化。事業が動き始める
2017年 河川整備計画(変更原案)が作成。公聴会などを経て、事業評価監視委員会に報告される。2018年秋に着工予定

 『基本方針』が発表されてから、実際に『着工』が始まるまで10年以上を要する結果となりました。今回、洪水が発生した原因は “当時から指摘されていたこと” です。そのため、この点は要改善と言えるでしょう。

 

なぜ、小田川で「バックウォーター現象」が起きるのか

 小田川で「バックウォーター現象」が起きたことが甚大な洪水被害を引き起こした有力な理由と見られています。

 小田川は高梁川に合流しますが、洪水時の合流水位は高梁川の方が高い状態です。そのため、洪水時は高梁川の河川水が “水の壁” として機能し、小田川の流れが阻害され、水位が高くなる(=バックウォーター)の特性を保持する結果になっているのです。

 また、高梁川と小田川の合流点付近が「高梁川の流下能力の最小地点」という指摘(PDF)を見落とすべきではないでしょう。

画像:高梁川が抱える問題

 “流下能力が最小” ということは「その地点の水位が最も高くなる傾向がある」と考えられます。つまり、高梁川の水位が最も高くなる(と考えられる)地点でバックウォーターが起きる因子を持った小田川が合流していたのです。

 指摘されていた危険性が現実のものになったと言えるでしょう。

 

国は小田川に対するどのような治水事業を実施しようとしていたのか

 危険性が指摘される点に対し、行政が何も反応を示していないなら、それは怠慢と言えるでしょう。しかし、小田川の件については国交省が「小田川の流下能力不足」について対策計画(PDF)をまとめています。

  1. 高梁川からの背水影響による水位上昇
    • 小田川との合流地点の付け替え
    • 固定堰の改築
  2. 小田川の河積不足
    • 河道の掘削
    • 河道内にある樹林の伐採

 共産党は「付け替え工事に反対、河道の掘削をすべき」との主張を展開していました。この主張は治水対策として不十分で、逆効果になるでしょう。

 高梁川の背水影響によって水位が上昇したところに河積能力を増強した小田川の河川水が流れ込むのです。「ラッシュで人が溢れているターミナル駅に従来より車両編成を増強した列車を支線から到着させるとどうなるか」を想像すると理解できるはずです。

 

 もし、現・野党の支持者で「民主党政権時に計画があった」との理由で「安倍政権の問題」と批判している人がいるなら、すぐに主張を止めるべきです。

 なぜなら、民主党政権は計画を策定しただけで、予算は付いておらず、事業は具体化していないからです。しかも、基本方針は第1次安倍政権時に発表済みなのですから、ブーメランになることは確実です。

 むしろ、公共事業を敵視した批判を受ける結果になることでしょう。『コンクリートから人へ』と主張し、社会福祉でバラマキを行った “ツケ” が公共事業などに予算削減という形で現れたことを自覚する必要があると言えるのではないでしょうか。