「危険地帯に住まない」という災害対策よりも先に「防災・避難情報の報道体制の見直し」をマスコミに要求すべきだ

 西日本の広い範囲を襲った豪雨の影響で河川が氾濫し、大きな被害が発生しました。

 再発防止策を作る必要があることは自明であり、「危険地帯に住まない」とのアイデアが出ている状況です。確かに、抜本的な解決策になるでしょう。

 しかし、実施にあたっては様々な問題がある上、時間を要することが確実です。そのため、先にマスコミ対して「防災・避難情報の報道体制の見直し」を要求する方が被害を少なくする現実的な対策と言えるでしょう。

 

「危険地帯に住むかどうか」かを決めるのは個々の住民

 防災対策として「危険地帯に住まない」という解決策が最も抜本的で効果のあるものです。これを否定する人はまずいないでしょう。

 しかし、次のような問題があります。

  • 国が『危険地帯』を定めると、既存住民が反発する
  • 「居住の自由」が存在する(憲法22条)
  • 「理想の移転先」が多数存在する訳ではない
  • 「治水事業費 > 移転費+都市開発費」である保証はない

 津波浸水予想の看板が「地価が下がる」との住民からの苦情で撤去される事態がありました。当然、国が『危険地帯』を指定しようとすると、該当地域の住民から猛反発を受けることでしょう。

 また、憲法で公共の福祉に反しない限り、「居住の自由」が存在するのです。そのため、国が「命令」を下せないという理由があることを認識しておかなければなりません。

 

危険地帯から移転させるには時間を要する

 移転するにしても、国土の狭い日本では地震・水害の危険性が低い土地は限定的です。急激な人口流入で保育園不足などの “都市問題” を誘発するリスクとなる可能性がありますので、「受け入れ先となる自治体で起きる可能性のある問題」への対策も用意しておく必要があるでしょう。

 引越代などのインセンティブを提示しても、すぐに移り住むことができる人は限定的と考えられます。

 もし強制的に移転させるとなると、“地上げ行為” が誘発されますので費用が高騰してしまいます。この場合は「治水事業を行った方がリーズナブル」となる状況にもなるだけに、「地方の衰退をどのように誘導するか」が問われることになるのです。

 

マスコミは気象情報を伝える際に河川・ダム情報も追加すべきだ

 とは言え、「危険地帯に住まない」という防災政策はすぐに実行できるものではありません。そのため、危険地帯に住んでいる人を中心に防災・避難情報を現状よりも効果的に伝えられるよう報道機関が体制を改める必要があるのです。

  • 現状:
    • 天気予報で降水確率が伝えられる
  • 改善案:
    • 天気予報で降水確率を伝える
    • 局地的な豪雨が予想される場合は「河川の流量」と「ダム貯水率」も伝える

 具体的には「気象情報(=天気予報)を伝える際に “河川の流量” と “ダム貯水率” も報じる」というものです。

 「崖崩れや急な河川の増水に注意してください」というお決まりの文言では効果は薄れています。気象情報では『警報』や『注意報』がある訳ですから、その概念を河川やダムにも応用すべきです。

 天気予報は国交省の外局である気象庁が発表していますし、河川やダムを管轄するもの国交省です。情報はウェブ上で公開されているのですから、それをメディアが視聴者に分かりやすく伝えるプロセスを確立させれば、避難行動が捗ることでしょう。

 

 局地的な豪雨が予想される地域で「『水防団待機水位』を超え、『氾濫注意水位』に近づいている河川」や「貯水率が 90% を超えるダム」がある場合は気象予報のマップで図示して注意を呼びかけるべきでしょう。

 そのために必要となるデータは国交省・河川局と気象庁がウェブで発表しているのです。

 まずは情報伝達に文句を言うメディアに対し、「国交省が発表している防災・避難に役立つ情報をまとめて気象コーナーで発表しろ」と要求することが現時点で最も効果的な防災対策になると言えるのではないでしょうか。