トルシエ・ジャパン時代の再現を狙い、サッカー日本代表に森保一氏の就任が発表

 日本サッカー協会は男子サッカー日本代表の監督にサンフレッチェ広島で監督として実績を残した森保一氏が就任したと発表いたしました。

 森保監督は2020年の東京五輪を戦う男子 U-23 を率いているため、兼任という形になります。2000年シドニー五輪の U-23 を率い、2002年の日韓W杯でA代表を指揮した “トルシエ監督の成功例” を再現することを狙った起用と言えるでしょう。

 

2016年リオ五輪のメンバーからは誰も2018年ロシアW杯のメンバーに入っていないという現実

 五輪代表(= U-23)を率いる森保監督がA代表も率いることになりました。「若手有望株選手の抜擢」に主眼を置いたと思われますが、「U-23 日本代表に選ばれてなくても、A代表の主力になっている選手は数多くいる」という現実を見落とすべきではありません。

 特に、2019年には25歳前後の選手にとって重要な国際大会が目白押しだからです。

  • 2019年1月:アジアカップ(UAE)
  • 2019年6月:コパ・アメリカ(ブラジル)
  • 2020年7月:東京五輪

 森保監督はアジアカップを「経験値を上げるために重要な大会」と発言していますが、アジアカップで求められるのは「結果」です。

 むしろ、苦手としている南米勢とガチンコ勝負ができるコパ・アメリカに招待をされているのですから、そちらを「経験値を上げる大会」という位置づけにすべきでしょう。

 

「2020年の東京五輪」までは森保監督の解任基準がないのは問題である

 また、森保監督の解任基準が一切言及されていないことは問題です。「どのような成績」が森保監督のアジアカップでのノルマになるのでしょうか。

 前回大会ではアギーレ監督は準々決勝で UAE に PK 戦で敗退しました。この成績は “失態” と呼べるものですから、「アジアカップ 2019 でベスト4未満なら、森保監督は解任」ぐらいの線引きは必須です。

 しかし、そのような条件を日本サッカー協会は何ら言及していないのです。「アジアカップ、ベスト8」、「コパ・アメリカ、グループ敗退」でも、森保監督は五輪代表監督を理由に続投となるでしょう。

 『監督に対する要求水準』が明確になっていないから、後付け的な理由で監督解任が起きるのです。その最たる例がハリルホジッチ前監督の解任騒動です。

 「監督に要求する代表チームとしての結果」や「プレースタイルに対する注文」はオープンになっていて問題はないはずです。これらの点をクローズにするから、批判が起きることを JFA は自覚する必要があると言えるでしょう。

 

日本サッカー協会の考える “強み” は今後のサッカー界で発揮できる能力なのか

 日本サッカー協会は森保監督が就任する際、"Japan's Way" を示し、今後の方向性を示しています。

 まずは『基本』となる部分として、以下の3点が記されています。

  • テクニック(技術+判断)
  • 攻守に関わり続ける個人戦術
  • 持久力(運動量)

 これらの点はどの代表チームでも、どのグラブチームでも育成年代で要求される点です。そのため、日本代表が掲げるのではなく、日本サッカー協会に加盟する各クラブの育成部門にノウハウを提示することが求められることになるでしょう。

 

「パスのスピード」と「戦術のバスケットボール化(ハンドボール化)」

 JFA が提示した『目指すサッカー』とは以下の5項目で構成されています。

  1. 攻守に連動してコレクティブに戦う
  2. 90分間一定のスピードで動き続ける能力
  3. 「止める・蹴る・運ぶ」の高いテクニック
  4. 判断力
  5. 対応力(状況に応じた攻撃と守備)。(臨機応変)

 これらの項目で高いレベルを示すことができれば、W杯でベスト8も夢ではないでしょう。しかし、現実は10人になったコロンビア代表を相手に中盤での支配権を確保できなかったのです。

 その原因の1つは「パススピードの不足」でしょう。パススピードが遅ければ、パスを通すために必要なスペースが余計に必要となります。“正確なキック” ではなく、“球速のある正確なキック” が要求されていることを認識しなければなりません。

 また、世界の戦術トレンドが『バスケ化』になりつつあることを見逃すべきではありません。

 ポゼッション能力が高まったことで、ボール奪取が難しい場面では中盤でのスタミナ消耗を避けるため、速やかに撤退することを選択するチームが散見されました。これは「人数をかけて数的優位性を確保する」ことを念頭に置く日本代表のスタイルにとって相性が悪いことを自覚する必要があります。

 

 「相手陣内でミスに付け込めれば、ショートカウンター」が基本となり、「ボール奪取が難しいなら、速やかに撤退してブロックを固めて相手のミスを待つ」というスタンスを徹底するチームが多くなるはずです。

 この流れが強くなる中で森保監督がどのようなチーム作りをするのかに注目と言えるのではないでしょうか。