東京五輪のボランティアは「学生」ではなく、「協賛スポンサーの社員」を主力とすべきだ

 日経新聞によりますと、2020東京オリンピックのボランティアを確保することに対する懸念が広がっているとのことです。

 そもそも、「ボランティアの主力は学生」と決めつけることが間違いでしょう。ボランティア確保のための広告を打つ予算があるなら、雇用費用として利用すべきです。

 また、ボランティアは「学生」ではなく「協賛スポンサーの従業員」を主力に据えなければなりません。

 

 2020年東京五輪・パラリンピックのボランティア募集期間(9月中旬~12月上旬)を控え、主力と見込む学生を十分に確保できるのかとの懸念が関係者の間で広がっている。「10日以上の活動が基本」「宿泊は自己手配、自己負担」といった条件が厳し過ぎるとの指摘があるのに加え、学生にとって2年後の予定が見通しにくい事情があるからだ。

 (中略)

 文部科学省とスポーツ庁は7月下旬、全国の大学や高等専門学校に対し、20年夏に学生がボランティアに参加しやすいよう、授業や試験日程を弾力的に変更できることを文書で通知した。

 現時点で「2年先の予定」を確定させる人は極めて少ないでしょう。なぜなら、自らを取り巻く環境は外的要因などによって、簡単に変化してしまうからです。

 また、オリンピック観戦客との宿泊施設争奪戦も強いられる可能性が高くなる訳ですし、多額の出費やリスクを負ってまでボランティアとして参加する価値はない状況だからです。

 

「学業が本分」の学生にボランティアを強いるべきではない

 まず、学生の本分は学業です。オリンピックやパラリンピックに出場する “学生アスリート” を対象に授業や試験の日程で配慮することに反対の声は上がらないでしょう。

 しかし、一般学生をボランティアとして活用するために授業や日程に弾力性を持たせようとすることは本末転倒です。

 学生は「学業の成績」で評価されるべきであり、「オリンピックのボランティアに参加するか」など全く無関係です。しかも、実態は『リスクを押し付けられたタダ働き』なのですから、参加は見送るべきと言えるでしょう。

 雇用関係にあれば、通勤・就業時に事件や事故に巻き込まれた場合は労災の対象となります。ですが、ボランティアの場合は事前に労災保険に加入しておかなければ、もしもの場合の保証はありません。こうした情報を周知せず、人員だけを確保しようとする姿勢は問題視せざるを得ないのです。

 

ボランティア要員の確保に躍起になっている大会組織委員会の理事は最大で月額200万円の報酬

 また、ボランティアが「自己手配・自己負担」を求められる一方で、ボランティアの募集をかける大会組織委員会の理事が「多額の報酬と経費」が認められている点には首を傾げずにはいられません。

 東京オリンピック組織委員会のウェブサイトには「定款・規程」が掲載されているのですが、役員の報酬は以下のように定められています。(PDF

画像:東京オリンピック組織委員会役員の報酬規定

 常勤(= 原則、組織委員会を主たる勤務場所とする)理事は『報酬額表』に基づく報酬を得ると定義されています。階級は第1号(月額10万円)から第20号(月額200万円)まで存在し、業務を遂行するごとで日当1万円を支給できるとも記されています。

 その上、「交通費・通勤費・旅費(宿泊費や日当を含む)・手数料は報酬とは区分される」のです。組織委員会は上層部・一般職員に関係なく『一般的な賃金体系』が確立されている訳ですから、大会運営に携わる末端の人員であっても雇用体系を採るべきと言えるでしょう。

 

協賛スポンサー企業の社員を「業務命令」という形で動員すべきだ

 「学生を “ボランティア” という形で動員し、大会の人件費を圧縮しようとする姿勢は卑しい」と言わざるを得ません。

 学業が本分の学生を動員するのではなく、オリンピック・パラリンピックの開催に協力的なスポンサー企業の社員を活用すべきでしょう。その際、「業務命令」の形で駆り出せば、人員が確保できる上、会社の労災を使うことができるのです。組織委員会はそちらにシフトすべきと言えるでしょう。

 なぜなら、数多くの超一流企業がスポンサーとして名を連ねているのです。

画像:東京五輪のオフィシャル・パートナー

 例えば、大手新聞社は『オフィシャル・パートナー』として名前を連ねていますし、メディアが自社の社員を “ボランティア” として提供すれば、「ボランティア不足」はすぐに解決するでしょう。

 「大会の内側から見た体験レポ」も書けるという大きな恩恵を受ける訳ですから、学生が積極的に無償協力する必要は微塵もないのです。

 

 『ブラック企業』など従業員の雇用形態を問題視してきたメディアが「オリンピックのボランティア環境を批判しないことはダブルスタンダード」と言えるでしょう。

 報酬は支払えないにせよ、「労災保険への加入」などボランティア希望者に知らせなければならない情報は多く存在します。そうしたことを踏まえた上で参加するかは個人が判断することであり、必要な情報すら満足に伝えられていない状況は問題視すべきと言えるのではないでしょうか。