「身体上の違和感」を訴える選手に「気にするな」と “根性論的な助言” をすることは取り返しのつかない事態を招く恐れがある

 NHK によりますと、右肘の違和感を訴えて戦線を離脱していたアメリカ・大リーグのカブスに所属するダルビッシュ投手が「右肘の骨挫傷」のため、今シーズン中の復帰が絶望的になったとのことです。

 原因が特定されたことはあ良かったのですが、「選手自身が(何度も)違和感を口にしていた」との事実は軽視すべきではないでしょう。なぜなら、「医療チームが適切な診察・処置を施していたのか」という部分においてフィードバックをする必要があるからです。

 

 大リーグ、カブスのダルビッシュ有投手は右ひじの骨の挫傷のため少なくとも6週間の治療が必要と診断され、今シーズン中の復帰は絶望となりました。

 (中略)

 カブスによりますとその後の精密検査の結果、ダルビッシュ投手は右ひじの骨の挫傷のため少なくとも6週間の治療が必要で右の上腕にも炎症があると診断されました。

 このため、治療後のリハビリや調整を考慮すると、来月で終わるレギュラーシーズンや、その後のプレーオフも復帰はできない見通しだということです。

 FA による大型契約でカブスに入団したダルビッシュ投手ですが、加入1年目は不完全燃焼に終わりました。

 ただ、5月頃から違和感を訴えていたのですから、原因の特定に時間がかかりすぎたことは問題点と言えるでしょう。特に「カブスのチームとしての医療体制」は現状を改善する必要があるはずです。

 

「選手からのシグナルを見落とし続けた」という結果責任は重い

 ダルビッシュ投手の右肘が「疲労骨折が危ぶまれるほどの状態」だったことは患部に造影剤を投与したことで明らかになりました。この診察を行うまでの判断は大いに見直す必要があるでしょう。

表:ダルビッシュの診察結果
2018年5月 右上腕三頭筋の腱炎で DL 入り。「筋組織の損傷はない」とカブスが診断
2018年6月 ダルビッシュがセカンドオピニオンを求め、レンジャースの医師が「右肘のインピンジメントと炎症」と診断
2018年8月 造影剤を投与したことで「右肘の骨挫傷(=疲労骨折寸前の状態)」を患っていたことが判明。シーズン中の復帰は絶望的と判明

 カブスのホイヤー GM は「造影剤の投与は最終手段」とコメントしていますが、行使する時期が遅れたことは否定できません

 5月の時点では造影剤を投与する判断はリスクが高く、カブスの判断は妥当です。しかし、ダルビッシュ投手が違和感を訴え続け、セカンドオピニオンを求めた6月以降も “切り札” の行使を見送り続けたことには疑問符が付くことです。

 これは「経営や戦略といったチームの事情が根底にある」と言えるでしょう。

 

「数日間の安静」をケチる決断を下したカブス

 造影剤を投与する際のデメリットは「数日間は安静にしなければならないこと」とホイヤー GM は認めています。そのため、選手が「軽い違和感」を訴えただけでは(造影剤の)投与を見送る判断は適切です。

 ですが、ダルビッシュ投手は「違和感を訴え続けていた」のですから、カブスの医療チームが投与の判断を誤り、復帰を急がせたことは否定できないでしょう。

 獲得に巨額費用をつぎ込んだ手前、1試合でも多く登板させて元を取りたい気持ちは理解できます。この考えが前面に出たから、わずか「数日間の安静」もケチる大きな要因になったのでしょう。

 日本よりも資金力があり、球数制限という形で投手管理が厳格なメジャーの球団ですら、こうした問題が起きるのです。資金面や戦力面で劣るアマチュア野球界では同様の事例が発覚していないだけで多数存在しているとの認識を持つ必要があるはずです。

 

有望な選手の競技人生が絶たれる前に、ルールで保護する必要がある

 選手が SOS を発信しても効果が得られない可能性があることはダルビッシュ投手の件から明らかです。

 医療チームによる誤診は一定の割合で発生しますし、ゼロにはできません。ただ、誤った判断を下したことが発覚すれば、改善策を適切に施すことで誤診が起きる確率を下げることはできます。

 また、吉田輝星投手(金足農業・秋田)の場合は「選手が限界を訴えても、監督がチーム事情を優先すべきと登板を指示」したのです。これは美談などではなく、過剰酷使に過ぎません。

 少なくとも、高校・大学には WBC のように球数制限を導入すべきでしょう。特定の選手への登板過多を避けることができますし、「競技人生が絶たれる」という最悪の事態を回避することが期待できるからです。

 

 規則による制約がなければ、有望株選手が潰れるまで酷使されていまうことが現状です。「選手サイドの声は無視されやすい」という現実をもっと直視する必要があると言えるのではないでしょうか。