台風21号で大きな影響を受けた関空、浸水被害からは回復の見通しが立つも連絡橋のダメージが響く

 台風21号の直撃による影響を受けた関西国際空港が徐々に機能を取り戻していると日経新聞が伝えています。

 浸水被害の復旧はもうじき完了するでしょう。ただ、関空にアクセスする際の大動脈となっていた連絡橋がタンカーの衝突で利用制約が科される結果となった影響が尾を引く結果となりそうです。

 この問題への対策を講じることが行政としての再発防止策になると言えるでしょう。

 

 運航を再開した旅客便は格安航空会社(LCC)のピーチ・アビエーションと春秋航空、全日本空輸、日本航空の4社。10日は旅客便が72便を運航したが、17年度の1日平均約460便の2割にも届かない。

 多くの航空会社が再開できない原因は浸水被害を受けた第1ターミナルの復旧の遅れにある。国土交通省近畿地方整備局は10日、関空の排水作業が終了したと発表。浸水がようやく、ほぼ解消された。

 現在、浸水で停電した地下の変電施設の復旧作業を急いでおり、手荷物搬送システムなどの動作を確認中のほか、様々な設備の点検などに追われる。第1の週内めどの一部再開でも「当初は50%稼働も難しい」(関西エアポート幹部)としており、復旧には時間がかかりそうだ。

 関空が浸水被害を受けた原因は高潮です。大阪湾では第二室戸台風の時を超える高潮を観測したのですから、これによって浸水被害が出ることは仕方のないことと言えるでしょう。

 南海トラフ地震で想定される津波よりも高い潮位の高潮が襲ったのです。この状況でも被害ゼロを要求するなら、現状を大幅に超過する公共事業費を予算として計上する必要があるため、「万全の対応を求めることは現実的ではない」と言えるからです。

 

「関空へのアクセス悪化」によるダメージは軽視できない

 関空がフル稼働できないことは「関西経済に影を落とす大きな要因」となるでしょう。24時間空港としてインバウンド・アウトバウンドの中継点になっていた機能が損なわれるからです。

 浸水被害での影響は軽視できませんが、復旧にかなり手間取ったとしても、1ヶ月もあれば完全復旧は可能と考えられます。

 しかし、空港へのアクセスが悪化したことの影響が出るのはこれからが本番です。なぜなら、関空以外を利用する流れが本格化し、人や物の “新しい流れ” ができてしまうからです。

 “新しい流れ” が固定化してしまうと、それを元に戻すことは簡単ではありません。この認識を持った上で行政側も問題の再発防止策を講じる必要があると言えるでしょう。

 

関空の連絡橋が “脆弱” だったことは確かだが、同様の事故を防ぐ行政主導の対策は存在する

 関西国際空港の連絡橋が大きなダメージを負った理由は「走錨を起こしたタンカーが衝突したこと」です。

 走錨が発生することをゼロにすることは(技術的にも現実的にも)不可能ですが、関空の周辺で走錨が発生することをゼロにすることは可能です。これは「関空島の周辺 〇km で、錨を下ろして停泊することを禁ずる」との規則を行政が定めれば良いからです。

 規則を守らない船舶には所有者や運行者に対する罰則・罰金を設け、場合によっては入港禁止措置を出せば、規則を無視する不届き者はほとんどいなくなるでしょう。

 今回の衝突事故についても、当該タンカーの非が確認された場合は損害賠償を請求することが行政(や空港管理会社)の責務と言えるはずです。

 

「関西国際空港連絡南ルート」の構想はあるが、経済的効果を考えると実現は難しい

 関西国際空港への主要アクセスルートは『道路と鉄道の併用橋(北ルート)』です。実質的に1つしかない状況ですが、神戸空港でも同じですので、実態を踏まえた批判をしなければなりません。

 大阪南部の自治体からは『南ルート』の要望は出ていますが、実現に向けたハードルは高いと言えるでしょう。

 『南ルート』は「天候に左右されることのない、安全で確実なアクセスルート」と定義していますので、トンネルで接続することを念頭に置いていると思われます。『冗長性を持たせる』ことは『余分なコストを費やす』ことであり、経済性の観点から理解を得にくいという問題点があるのです。

画像:関空・南ルートの位置関係

 関空の『南ルート』を本格的に検討するなら、「加太(和歌山)と淡路島の間にある友ヶ島水道に海底トンネルを通した方が経済効果は大きいのでは?」との指摘が出てくるでしょう。トンネル部分は「沖ノ島(友ヶ島)と淡路島の間」であれば、距離は『南ルート』よりも短いですし、残りは橋で接続すれば済みます。

 垂水ジャンクションを先頭に淡路島方面への渋滞が行楽期には頻発しているのですから、四国からの物流がスムーズになるとのメリットを上回る経済効果を上回る理由を『南ルート』推進派が示すことは難しいと思われます。

 

 現状としては、行政が「関空島周辺での停泊を禁じる法案」を成立し、運用を徹底するための予算を付けることが最も具体的で効果があると言えるでしょう。

 『南ルート』を建設するというプランは冗長性を持たせる上で重要ですが、費用対効果を考慮に入れる必要があります。夢洲に IR を建設するプランが進行中なのですから、関空と夢洲(または咲洲)を高速フェリーで接続することも現実的な選択肢になるでしょう。

 『24時間空港』と『統合型リゾート施設』を結びつけることは両者に相乗効果をもたらすことが期待できるからです。そのための投資を行政が検討することは十分に値すると言えるのではないでしょうか。