電力不足の北海道が旅行先・投資先から外されるのは当たり前 「安価で十分な電力供給」が地方活性化の1丁目1番地である

 北海道で起きた地震で道内の電力供給が大きく不足していることが明るみに出ました。

 この地震の影響で50万人の宿泊がキャンセルされ、影響は100億円に達していると読売新聞が報じています。ただ、この影響はこれからが本番でしょう。

 なぜなら、今冬も節電が要請される可能性は高く、スキーやスノボを楽しむために北海道を訪れる観光客が敬遠することによる影響が現れると予想されるからです。

 

 北海道で最大震度7を観測した地震で、道内での宿泊施設のキャンセルが少なくとも50万人に達することがわかった。大規模な土砂崩れが起きた厚真町での道路や農業用設備などの被害額は約157億円に上ることも判明。

 (中略)

 日本旅館協会北海道支部連合会によると、50万人の宿泊キャンセルによる影響額は100億円に達しており、集計中のためさらに拡大する見通しだ。イベントの中止や期間短縮も相次ぎ、秋の観光シーズンに大きな痛手となっている。

 電力不足の影響が懸念されるのは「秋の観光シーズン」よりも「冬の観光シーズン」でしょう。

 北海道の魅力は「冬用の観光資源」を持っており、ニセコなどのリゾート施設がインバウンドの牽引役となっています。しかし、電力不足となれば、不便を強いられることが確定的な日本を訪れる外国人観光客は少なくなることが予想されます。

 これは地方経済の落ち込みに直結する訳ですから、対策を講じる必要があると言えるでしょう。

 

北電を悪者にすれば、泊原発再稼動に否定的な道新や道議の責任が免罪される訳ではない

 北海道の経済に電力不足という形で露骨な影響が出たことで、原因を作ったメディアや政治家が責任転嫁を始めました。このような無責任な政治家は与野党に関係なく、批判にさらされるべきでしょう。

 自民党・道民会議の村田憲俊氏(後志管内)は「苫東(厚真火力発電所)はかなり古く、対応しなければならないことは分かっていた話だ。おろそかになっていた懸念がある」と指摘し、「北電は企業の社会的責任をうたっているが、意志が見えない」と批判。道に指導力の発揮を求めた。

 まず、北海道電力は2011年10月に「石狩湾新港発電所(LNG 火力)の建設計画」を発表しています。「既存火力発電所の老朽化」を理由に代替電源の確保を目的に動き出していたのです。

 また、「大型電源を分散させる」という狙いも説明している訳ですから、政治家が批判できる根拠はそもそも存在しないのです。泊原発の運転を妨害していたことで生じる責任を転嫁するための開き直りとしか言えないでしょう。

 

「不便を強いられる地域に旅行したり、投資したりする魅力はあるのか」を考える必要がある

 経済に対するマイナス面が顕著に現れるのは冬の期間でしょう。北海道は雪山があるため、スキーやスノボといった観光資源を目当てに国内外から観光客が訪れます。

 ところが、節電でなんとか電力供給を賄っている状況なのですから、電力不足であることに変わりません。これは「例年よりも不便を強いられる可能性が高い」ということを意味しています。

 北海道に里帰りをする人ならまだしも、観光先を選ぶ側の一般人は北海道を選択肢から外す傾向が強くなるでしょう。高額な旅費をかける必要がある外国人観光客も同じと言えるはずです。

 その結果、リゾート地だけでなく、札幌など歓楽街の売上も落ち込むことになると予想されます。日本の「耐えることは美徳」という価値観は世界共通とは言えず、例外的なものです。

 お金を払ってまで、不便な生活を強いられることを好む人はごく少数です。ビジネスにはなり得ないのですから、「極寒の北海道でも快適な生活ができる」というアピールができなければ、地方経済は落ち込む一方になると言えるでしょう。

 

冬場に電力需要が増加する北海道で、『泊原発の再稼動』以外の現実的な選択肢は存在するのか

 北海道で電力需要が増加するのは冬の期間であることは需給実績を確認すれば明らかです。2017年10月から12月までの最大需要電力量は以下のとおりです。

表:北電管内の最大需要電力量(2017年10月〜12月)
400万kW超 450万kW超 500万kW超
10月 6日間 - -
11月 14日間 5日間 -
12月 4日間 25日間 2日間

 10月で400万kWを超える需要があったのは6日間でしたが、ほとんどの日で300万kW台後半の需要を記録しています。予備率を考えると、400万kWの供給力は(10月の時点で)不可避であり、「電力が足りていない」ことは明らかです。

 苫東厚真火力発電所を冬に電力需要までの急がせても、本質的な問題が解決されたことにはなりません。なぜなら、地震発生前の状態に戻っただけで、老朽化した火力発電所が止まると再びブラックアウトが起きる可能性があるからです。

 この状況で、『泊原発の再稼動』を頑なに拒絶し、冗長性を捨てることを「発送電分離」で要求したのです。また、再生エネを高額で買い取ることを FIT で義務づけたのですから、火力発電所の置き換えが経済的に難しくなることは当然の結果と言えるでしょう。

 

 2020年には北海道電力などの大手電力会社は発送電分離により、供給義務から解放されるのです。つまり、2019年に稼動予定の石狩湾新港発電所(LNG 火力)1号機は建設されますが、2号機・3号機の建設は「採算に合わない」との理由で建設を延期することもできるようになるのです。

 人口が減少する予測が出ている北海道で大型投資をする意味はありません。むしろ、老朽化した火力発電所を稼動させ、収益が下回らないように供給を絞ることでしょう。

 電力が不足する地方は人口流出が発生しますし、企業も撤退することが予想されます。そうなると電力需要は下がりますが、雇用先が減少するため、経済が落ち込むことで負のスパイラルが加速する結果を招くことになります。

 『北海道の電力不足問題』に取り組まない政治家が言う「地方活性化」など口先だけで、実態は我慢を強いるだけで何もしないと言えるのではないでしょうか。