米中貿易戦争の激化が避けられない状況なのだから、日本政府は自国経済へのマイナスを最小限にするべく動かなければならない

 NHK によりますと、アメリカ・トランプ政権は17日に中国への制裁措置(第3弾)を実施すると表明したとのことです。

 これに対し、中国政府も報復措置を表明。また、アメリカ政府は再報復の実施を述べており、貿易戦争は激化する一方だと言えるでしょう。日本政府は自国経済への悪影響を限定するための政策を速やかに実行に移す必要があるはずです。

 

 トランプ政権は17日、中国がアメリカの知的財産権を侵害しているとして、今月24日から2000億ドルの輸入品に10%の関税を上乗せする第3弾の制裁措置を決め、中国からの輸入品のほぼ半分が制裁の対象になります。

 これに対抗して、中国も18日夜、アメリカからの600億ドル規模の輸入品に最大で10%の関税を課す報復措置を、同じく24日から実施すると発表し、輸入品の70%以上を関税の対象にしました。

 こうした中国の動きに対してトランプ大統領は18日、記者団に、「アメリカの農家や労働者に対し報復措置をとるなら、追加で2670億ドルの制裁措置を実行する」と述べ、次は、中国からのほぼすべての輸入品を制裁の対象にする構えを改めて示しました。

 アメリカと中国はどちらも “メンツ” があるため、降りることは念頭にないでしょう。そのため、米中貿易戦争は長期化することが予想されますし、その影響は世界中に波及することでしょう。

 調停役として下手に名乗りをあげると、両国から批判を受けるリスクがあるだけに、まずは自国経済への悪影響を限定する政策を実行することに専念する必要があると言えるはずです。

 

『基軸通貨である米ドル』に『人民元』が “戦い” を挑んだ以上、後戻りはできない

 国際貿易の際に利用される通貨は『米ドル』です。『ユーロ』や『日本円』は IMF の SDR (特別引き出し権)構成通貨に採用されている「国際通貨」ですが、『米ドル』のような「基軸通貨」ではありません。

 『人民元』は2016年10月に IMF から SDR に採用されましたが、中国政府が中国国内から人民元の持ち出しを制限するなど、「国際通貨」としてはまだまだ脆弱な段階です。

 ただ、中国のシー・ジンピン(習近平)総書記は「人民元の基軸通貨化」を打ち出しており、これがアメリカの “逆鱗” に触れることになりました。なぜなら、これまでアメリカ政府が使ってきたグローバル企業への脅しが使えなくなるからです。

 国際貿易には『米ドル』での決済が不可避であり、『米ドル』はアメリカ政府の監督下にあります。つまり、アメリカが覇権を握っている要因の1つが「基軸通貨」である『米ドル』なのです。

 中国政府は「現行の米ドルが基軸通貨である状況を無効化にする」と宣言した訳ですから、「覇権を奪う」と布告したも同然です。アメリカ側が『人民元』を叩き、「人民元が基軸通貨として育つこと」を妨害することは当然の流れと言えるでしょう。

 

“痛み分け” に踏み切る理由が見当たらなければ、米中貿易戦争は長期化する

 この米中貿易戦争は「長期化する」との認識で対応策を用意する必要があるでしょう。なぜなら、両国ともに収束させるための最もな理由が見当たらないからです。

  • アメリカ:人民元が強くなるほど、叩くことが難しくなる
  • 中国:シー・ジンピン(習近平)総書記のメンツが賭かっている

 野心を隠そうとしない中国を野放しにしておくと、アメリカの強みである「米ドルによる覇権」を失うことになります。それによって、グローバル企業との立場が逆転することになり、ウォール街が持つ力も衰退すると予想されます。

 共和党も民主党も「アメリカの力が弱まること」は歓迎しないと思われます。国力が弱まると、国内への投資額は減るため、雇用情勢は悪化します。この現実がある以上、党派に関係なく中国の増長は歓迎しないことでしょう。

 対する中国も最高指導者の方針がある以上、軌道修正は困難を極めることでしょう。“落としどころ” を見つけることが困難ですから、長期化することを前提にした経営上の柔軟性を持たせることが鍵になると思われます。

 

日本政府は日系企業のセーフティーネットとなるような政策を準備しなければならない

 アメリカと中国が貿易戦争状態に突入しているのですから、その影響は他国にも波及します。日本経済や日系企業も “流れ弾” に被弾することになるでしょう。

 両国が矛を収めれば良いのですが、どうなるかの予測を立てることも困難です。

 ただ、セーフティーネットとして機能するための政策を用意することは可能であり、こうしたテーマこそ、国会で議論すべきと言えるでしょう。TPP を早期発効することで、通商の “砦” を築くことは可能ですし、EU との EPA も同じ効果があります。

 また、エネルギー資源の大部分が南シナ海を通過している現状に対し、「原発再稼働」という形で生活・生産コストの削減を図ることも重要になります。

 企業で太刀打ちできない国家同士が貿易戦争を繰り広げているのですから、国内市場で多くの雇用先を提供する企業を守ることは必要と言えるでしょう。政府や与党、国政政党には健全な市場が形成されるための経済政策を実施することが期待されているのです。

 重要案件に正面から取り組もうとしない政治家には厳しい批判を浴びせる必要があると言えるのではないでしょうか。