「社会保険料を引き下げ、消費税率を引き上げること」が国の財政再建には最も効果的だ

 国の財政再建がメディアで取り上げられる中、日経新聞が佐藤主光・一橋大学教授の「消費税中心の税体系」を訴える記事を掲載しています。

 消費税率の引き上げに反感を持つ人は多いのですが、消費税よりも生活の重荷となっている社会保険料の引き下げに言及しており、主張内容に耳を傾ける意味はあると言えるでしょう。『財政再建』をテーマに議論をするなら、佐藤教授の主張を避けて通ることはできないはずです。

 

 国・地方の債務が国内総生産(GDP)比200%を超え、人口の高齢化で社会保障費の増大が見込まれる中で、財政再建は喫緊の課題だ。政府は25年度までの国・地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化を掲げる。そこで消費税増税の環境を整えるため、消費税率引き上げによる駆け込み需要・反動減といった経済の振れをコントロールし、需要変動の平準化、ひいては景気変動の安定化に万全を期すことを目指している。

 財政収支が悪化した理由は「従来の税制が時代と合致していないから」です。

 人口比率の多い高齢者の顔色を伺う政治をどの政党も行っているのです。『高齢化による社会保障費の増大』が財政悪化の原因であることはマスコミを含めて理解しているでしょうが、「金と票を守る高齢者を敵に回したくない」という打算が働き、国の財政悪化を助長しているのです。

 これでは現役世代が生活苦に陥ることは当然と言えるでしょう。

 

戦後の復興期に作られた税制が現在も基幹になっていることが問題

 そもそもの問題は「現在の税制が “戦後の復興期に作られた前提” を踏襲していること」です。

  • 戦後の復興期〜高度経済成長期:
    • 資産を持っている人がゼロに近い
      → 財閥解体、小作人への農地譲渡など
    • 戦後のベビーブームで勤労世代が急増
    • 高度経済成長期
  • 現在:
    • 資産のほとんどを高齢者が保有
      → 勤労世代の賃金は低く、資産も少ない
    • 少子高齢化で勤労世代の数は減少
    • 先進国となり、高い経済成長は見込めない

 戦後の復興期や高度経済成長期は「所得」を税の対象にすることは理想的でした。なぜなら、「資産」を持つ人がほとんどおらず、所得収入がある勤労世代が絶対的な多数派だったからです。

 ところが、先進国になったことで生活コストが増加すると、少子化が徐々に進行。しかし、税の対象を「所得」にしたままだったことで税収は減少し、そこに高齢化による社会保障費の支出増加も重なり、財政は一気に悪化したという問題があるのです。

 

『消費税』よりも『社会保障費』の方が不公平という現実

 消費税率の引き上げが議論になる際、必ずと言っていいほど「消費税は弱者に対し、不公平」という主張が出ています。これは『社会保障費』のスケープゴートにされていると言えるでしょう。

 なぜなら、社会保障費の方が弱者を痛みつける性質を持っているからです。

消費税
  • 高い財源調達力を有する
    (景気や人口構成の変化に左右されにくい)
  • 「低所得者の負担が重く、逆進的」との批判
  • 経済活動への歪みが小さい
社会保障費
  • 社会保険料の負担は勤労世代に集中
    → 世代間格差が生じる
  • 国民年金や国民健康保険は定額部分があるため、低所得者の負担は重く、逆進的
  • 企業も社会保険料の支払いを労働者と折半

 まず、消費税は消費活動を行った人全員が課税対象です。収入や年齢に関係なく、同じ税率に基づく負担が求められるため、極めてフェアな税体系と言えるでしょう。

 一方の社会保険費はアンフェアです。負担は勤労世代に集中し、資産を有する高齢者も “仕送り” の対象となっています。しかも、勤労者だけが負担しているのではなく、雇用者である企業も同額の社会保険料を納付しています。

 この点にスポットがほとんど当たっていないのですから、是正すべきは社会保障負担だと言えるでしょう。

 

日本は他の先進国よりも「消費税率が低く、社会保険料が高い」

 そのため、日本が採るべき政策の方向性は「消費税率を引き上げ、その代わりに社会保険料率を引き下げる」というものです。OECD 平均と比べて、社会保険料への依存が高く、消費税への比重が少ないことが明らかであり、改善項目と言えるはずです。

画像:GDPに占める社会保険費と消費税の割合(日経新聞より)

 『手取り収入』しか気にしないサラリーマンは「消費税率のアップ」を不快に思うことでしょう。

 しかし、消費税率は 8% ですが、健康保険は給与の約10%、厚生年金は給与の約20%弱という数値です。社会保険料は企業との折半であるため、労働者側が負担している実感は半分に薄れていますが、「労働者に支払われるべき給与が社会保険料として消えている」という現実は覚えておくべきです。

 現行の税体系が維持されるメリットを受けるのは年金受給者やその予備軍ぐらいです。低い消費税率の恩恵を得た上、資産の少ない現役世代から年金という形で生活費を搾取できるからです。

 

 本当に『弱者の味方』であるなら、「世代間格差」の問題に切れ込むタフなジャーナリストが現れることでしょう。ただ、既存メディアに加え、有力政党のほとんどが高齢者に尻尾を振り続けていますので、日本経済の落ち込みは現状では止めようがないと言えるのではないでしょうか。