本庶佑・京大特別教授のノーベル賞受賞は喜ばしいが、「科研費の配分」や「高額薬による医療費増大」という問題点は無視すべきでない
2018年のノーベル医学・生物学賞に「がん細胞に対して免疫が働くようにする新たな治療薬の開発」に貢献した本庶佑・京都大学特別教授が選ばれたと NHK が報じています。
研究成果が認められ、新しい治療方法が確立したことは技術の進歩であり、喜ばしいことと言えるでしょう。しかし、「科研費の配分方法」や「高額薬による医療費増大で健康保険制度が限界に達しつつある」との問題点も出てきているのです。
これらの点に対する改善に取り組む必要があると言えるでしょう。
ことしのノーベル医学・生理学賞の受賞者に、免疫の働きを抑えるブレーキ役となる物質を発見し、がんに対して免疫が働くようにする新たな治療薬の開発などに貢献した京都大学特別教授の本庶佑さんが選ばれました。
(中略)
この発見によって再び免疫が働くようにして、人の体が本来持っている免疫でがん細胞を攻撃させる新しいタイプの治療薬、「オプジーボ」という薬の開発につながりました。
新しいアプローチでがんの治療薬を開発することに貢献したのですから、本庶特別教授がノーベル賞を受賞したことは妥当と言えるでしょう。本庶特別教授の成果は最大限の賛辞が送られるべきですが、成果の引き換えに浮き彫りとなる問題点を直視しなければなりません。
それができなければ、ノーベル賞に匹敵するほどと研究成果が社会に還元されにくくなってしまうからです。
『科学研究費助成事業』の対象になぜ文系科目まで含まれているのか
ノーベル賞を受賞した研究者は異口同音に「基礎研究への予算を充実させて欲しい」と述べます。この要望は毎回のように出されるのですが、行政・政治家・マスコミのいずれも応えようとはしません。
実績を残すには『環境』が必要不可欠なのですが、他国よりも劣る研究環境で良い成果を継続して残すことは年々難しくなっていると言わざるを得ないでしょう。
研究者にとっての生命線は「科研費(=科学研究費助成事業)」ですが、この対象には文系科目も含まれています。「社会学」や「政治学」といったノーベル賞とは縁もゆかりもない文系学者に億単位の科研費が投じられている実態は是正対象と言わざるを得ません。
文系科目であっても、ノーベル賞のように世界中で認められる研究成果を残しているなら、科研費の支給対象とすべきでしょう。しかし、実態は “活動家もどきの学者” の活動費と化しているのですから、この分を理系学者が行っている基礎研究に回すべきなのです。
この議論を避けて通ることはできませんし、行政はそろそろ本腰を入れるべきと言えるでしょう。
「オプジーボの利用が広がるほど、健康保険制度が限界に近づく」という皮肉
本庶特別教授の研究によって生まれた薬が『オプジーボ』なのですが、少し前に『オブジーボ』の価格が社会問題となっています。
『オプジーボ』は2014年に「悪性黒色腫」のみが保険適用となりました。そのため、価格は100mg/1瓶が約73万円と高額だったのですが、2015年12月に「非小細胞肺がん」が保険適用の対象に追加。これにより、売上が急拡大しました。(現在は薬価の改定で発売当初の4割になっている)
保険が適用されるのですから、健康保険の加入者は『高額療養費制度』を使うことが可能になります。つまり、患者は『オプジーボ』という高額薬を治療に使うが、『高額療養費制度』で高額な医療費用負担からは逃れられるという事態が問題となったのです。
患者が払わない分は他の健康保険加入者が “薄く” 分担しています。しかし、『オプジーボ』のような高価格薬が『高額療養費制度』の対象となると、加入者が現状で支払っている保険料では制度を維持することが難しくなります。
保険料のさらなる値上げは不可能な水準に達していますし、『オプジーボ』のような “高い効果が見込める高価格薬” が今後も出てくることでしょう。したがって、「どの治療法・治療薬を健康保険の対象とするのか」を議論し、定義しておくことは喫緊の重要課題だと言えるでしょう。
『保険診療』の範囲を明確にし、『自由診療』と組み合わせた『混合診療』にシフトしなければ、現在の健康保険制度が瓦解することは時間の問題です。国民全体に被害が及ぶ前に、制度変更に乗り出す必要があるはずです。
「理系項目の基礎研究に対する予算の確保」も、「高価格薬が高額療養費制度の対象となることでの健康保険制度の崩壊」も以前から指摘されていたことです。
どちらの問題も「時間が解決してくれる」というものではなく、「時間の経過とともに手遅れになる」という代物です。“ご破算” という問題が起きる前に、修正という形で手を加えるべきと言えるのではないでしょうか。