入院治療費や給与損失の支払いに応じていない日馬富士の姿勢を擁護することは到底できない

 読売新聞によりますと、幕内力士・貴ノ岩が自身への傷害事件を起こした加害者である元横綱・日馬富士に対する損害賠償訴訟を提訴したとのことです。

 日馬富士側が「請求額が高すぎる」と批判のコメントを出していますが、請求内容を見る限りでは妥当な内容と言えるでしょう。少なくとも、「入院・治療費の支払い」や「幕内に留まっていた場合との給与差額」を支払う責務があると考えられるからです。

 そうした項目での支払いもせず、「請求額が高い」と文句を言ったところで逆効果です。また、日馬富士の行為や言動を擁護する “御用記者・マスコミ” も同罪と言わざるを得ません。

 

 昨年10月に起きた大相撲の元横綱日馬富士関による幕内貴ノ岩関への傷害事件で、貴ノ岩関の代理人弁護士が4日、都内で記者会見し、元横綱を相手取り、同日付で計約2400万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたと発表した。

 貴ノ岩関の代理人弁護士によると、双方の代理人の間で進めてきた示談交渉が成立せず、「プロ選手が活動ができなくなったものと考えている」との理由で訴えを起こしたと説明した。損害賠償の内訳は、慰謝料、入院治療費、休場などによる給与や懸賞金の逸失分などとしている。

 「請求額2400万円」と聞けば、高額のように感じるでしょう。しかし、内訳を見ると、そうとは言い切れません。

 入院・治療費に加え、暴行被害で欠場を余儀なくされなければ獲得していたであろう賃金に対する請求額が大部分だからです。この点を無視した批判は逆効果であると言わざるを得ないと思われます。

 

貴ノ岩側の請求額の内訳

 貴ノ岩が行った損害賠償請求の内訳は以下のとおりです。

  • 請求総額:2413万5256円
    1. 積極損害(= 入院・治療費など):435万9302円
    2. 逸失利益:1258万1840円
      1. 給与差額:148万1840円
      2. 懸賞の逸失:900万円
      3. 巡業手当の逸失:38万円
      4. 幕内養老金等の減少:172万円
    3. 慰謝料:500万円
    4. 弁護士費用:219万4114円

 慰謝料請求が2400万円なら、「多い」と感じる人が大半を占めるかもしれません。しかし、慰謝料請求は500万円で、入院・治療費や逸失利益が請求のほとんどなのです。

 最も大きい請求額となっている懸賞の損失(= 900万円)についても、『貴ノ岩に懸けられた懸賞の本数(年平均60〜70本)』と『貴ノ岩の幕内勝率(49%)』から算出された額であり、「不当に高い」との批判は当たらないでしょう。

 「損失が認められる場所数」に対する見解の相違は存在しても、「損失の算出方法」は妥当なものと認定されるはずです。こうした部分も全否定する日馬富士側の姿勢は反感を買うだけと自覚する必要があります。

 

入院・治療費や損失所得の支払いに応じていない日馬富士を擁護することはできない

 日本相撲協会は『貴ノ岩の起こした損害賠償訴訟』からは距離を取るでしょう。なぜなら、協会側の “落ち度” が目立つ結果になるからです。

 日馬富士が入院・治療費を支払い、逸失利益の請求にも応じていれば、貴ノ岩の行為を批判することは可能です。「なぜ、この時期に訴訟を?」や「請求額2400万円は多すぎる」との批判に説得力が生まれるからです。

 しかし、実際は入院・治療費すら支払わず、50万円ほどで民事訴訟を放棄させようとしているのです。つまり、下手に相撲協会が介入してしまうと、「暴行事件の被害者に泣き寝入りを強いるのか」と批判を受けますし、「特例で十両に留めるとした判断は何だったのか」との突き上げを受けることでしょう。

 「慰謝料請求500万円は多い」との批判はできても、それ以外は貴ノ岩の訴えの方が妥当性があると言えるでしょう。

 自分が負傷させた相手の入院・治療費を支払うことを渋る日馬富士に国技館での引退式をさせたのですから、相撲協会の対応は “槍玉にあげられる可能性のあるもの” との自覚を持たなければなりません。

 

貴ノ岩サイドが現状では批判される理由は何1つ存在しない

 貴ノ岩と日馬富士の騒動は民事訴訟に場を移す結果となったのですから、当事者を除く第三者は中立の立場を維持すべきでしょう。それが “流れ弾” による被害を最小限にするリスクマネジメントになるからです。

 日馬富士から「貴ノ岩の入院・治療費は支払ったし、逸失利益についても当方に責任があると考えられる場所分の支払いは済ませている。にも関わらず、さらなる慰謝料請求は到底容認できない」との主張があれば、貴ノ岩サイドへの風当たりも強くなるでしょう。

 しかし、現状では日馬富士サイドからは「入院・治療費は支払い済み」との反論すらないのです。相撲協会から退職金を得ていながら、自らの暴行で負傷させた貴ノ岩の入院・治療費すら支払っていない姿勢は論外と言わざるを得ません。

 このような態度を取る人物を横綱として祭り上げた相撲協会やマスコミ・記者も責任を負う必要があると言えるのではないでしょうか。