ドイツ南部バイエルン州で連立政権を組む与党が大敗、メルケル政権に対する逆風が強まる
ドイツ南部に位置するバイエルン州で現地10月14日に州議会選挙が行われ、メルケル首相の下で連立政権を組む政党がどちらも大敗したと日経新聞が報じています。
2017年に行われた連邦議会で議席を大きく減らした “大連立を組んでいた2大政党” が今回のバイエルン州の州議会選挙でも敗れたのです。メルケル首相の求心力はゼロに近づきつつあると言わざるを得ないでしょう。
メルケル政権への逆風が強まっている。保守の牙城だったドイツ南部バイエルン州の州議会選挙で、政権与党のキリスト教社会同盟(CSU)が大敗。2015年の難民の大量受け入れへの不満や、政権迷走への失望が与党離れにつながった。次の焦点は28日のヘッセン州議会選挙だが、与党の苦戦を見込む声が多い。仮に連敗となれば、メルケル首相の責任論も浮上しかねない情勢だ。
責任論も何も、メルケル首相の “賞味期限” は切れているのです。不評だった「大連立」を『キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)』や『ドイツ社会民主党(SPD)』は継続する決断を下したのですから、逆風が続くことになったのは当然と言えるでしょう。
2018年・バイエルン州議会選挙の結果
10月14日に行われたバイエルン州議会選挙の政党別獲得議席数および得票率は下表のとおりです。
2018 | 2013 | |||
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議席数 | 得票率 | 議席数 | 得票率 | |
CSU | 85 | 37.2% | 101 | 47.7% |
緑の党 | 38 | 17.5% | 18 | 8.6% |
自由な有権者 | 27 | 11.6% | 19 | 9.0% |
AfD | 22 | 10.2% | (不参加) | |
SPD | 22 | 9.7% | 42 | 20.6% |
FDP | 11 | 5.1% | 0 | 3.3% |
2017年の連邦議会総選挙と同様に与党(CDU/CSU と SPD)が議席を減らし、旗色を鮮明にした政党が批判の受け皿という形で獲得議席を伸ばす結果となりました。
一部の報道では「『緑の党』が躍進」と取り上げていますが、これは中道左派の SPD を支持していた有権者が同じ左派路線の『緑の党』に鞍替えしたに過ぎません。むしろ、左派政党の得票率が前回よりも微減となっている現実を重く受け止める必要があると言えるでしょう。
『中道右派政党』と『中道左派政党』が “大連立” を組んだことが混迷の発端
2大政党制が根付いている国では『中道右派政党』と『中道左派政党』が軸となり、政治が行われます。ただ、比例選挙で争われる国の場合は「2大政党がどちらも過半数を取れない」ことが起きる場合があり、ドイツはこの対応で失敗してしまいました。
ドイツでは『中道右派政党(CDU/CSU )』と『中道左派政党(SPD)』が大連立を組んだのですが、両政党ともに支持率を下げる結果を招きました。
『中道右派』が左にシフトし、『中道左派』が右にシフトしたのです。従来の政治路線を変えて『中道』を色濃くしたのですから、『中道右派』や『中道左派』を支持する有権者に他政党への鞍替えを推奨していることと同じです。
その結果、右派スタンスの『AfD』や『FDP』、左派スタンスの『緑の党』が “受け皿” という形で支持を伸ばし続けているのです。「社会の分断」という形でマスコミは嘆く記事を報じていますが、そもそもの発端は「安易な大連立」という政治家の判断であることを自覚する必要があるでしょう。
メルケル首相への逆風が強まったところで “劇的な変化” が起きる可能性は低い
メルケル首相がドイツ国内での難民問題を作った張本人なのですから、風当たりは今後も強いままでしょう。しかし、どれだけ逆風が強まっても、大きな変化が起きる可能性は低いと考えられます。
それは政権の基盤となる「議会での連立体制が揺らぐ要素が見当たらないから」です。
メルケル首相の退陣は起こり得る可能性はありますが、議会解散にまで発展する見込みは低いと言えるはずです。CDU/CSU と SPD は再選挙をされるとさらに議席を減らす恐れがあったから大連立を継続したのであり、大した成果を出す前に総選挙で有権者に信を問うことは自殺行為になってしまいます。
ですから、基本は現状維持となるでしょう。メルケル首相の政治的生命と引き換えに難民政策の大転換をできなくもないのですが、安全を担保する必要のないマスコミが無責任に同情論を騒ぎ立てることが予想されるだけに非現実的な選択肢と言わざるを得ません。
「安易に外国人を呼び寄せるとどのような事態を招く結果になるのか」はドイツを反面教師にする必要があると言えるのではないでしょうか。