漫画家個人と代理人弁護士が「漫画村の運営者」を特定したにも関わらず、『ブロッキング』を要求する出版社の姿勢は理解不能

 共同通信によりますと、漫画などを無断でインターネット上に公開していた “漫画村” の運営者情報が特定されたとのことです。

 特定方法は「裁判を通しての通信記録の開示請求」というオーソドックスなものです。大手出版社などは『ブロッキング』を要求していますが、“やるべき対処策” を講じていなかった疑いが強く、批判されるべき態度だと言えるでしょう。

 

 漫画を無断で公開していた海賊版サイト「漫画村」を巡る情報公開訴訟で、サイトにサーバーを提供していた米IT企業が、通信記録(ログ)のほぼ全てを原告の漫画家側に開示し、それを基にサイトの運営者が特定されていたことが27日、分かった。原告代理人の中島博之弁護士が明らかにした。今後、運営者への損害賠償請求訴訟を検討するという。

 東京都の漫画家が4月、作品を無断で公開され著作権を侵害されたとして、米IT企業「クラウドフレア」に、運営者に関する情報の公開を求めて東京地裁に提訴した。

 実務を担当した中島博之弁護士が行ったのは「通信記録(= ログ)の開示請求」ですから、IT 企業を相手取った「発信者情報の開示請求」を訴訟することと同じです。

 “トリッキーな手法” と言えるものではありません。むしろ、オーソドックスな手法であり、個人の漫画家や代理人弁護士ができたことを大手出版社などがやっていなかったことが驚きと言わざるを得ないでしょう。

 

資金力のある大手出版社は『漫画村問題』にどのような対応をして来たのか

 この『漫画村問題』で気になるのは「(資金力のある)大手出版社がどのような対応をしていたのか」という点です。

 大手出版社などは「緊急性」を理由に『ブロッキング』の実施を要求していました。しかし、大手出版社とは比較にならない資金力しか持たない個人の漫画家が “オーソドックスな手法” で漫画村の運営者を特定したのです。

 これは「大手出版社が “やるべきこと” を何もしていなかった」と言わざるを得ません。

 漫画村はクラウドフレア社が提供するコンテンツ配信ネットワークサービスを利用していました。その結果、クラウドフレア社に対する情報開示請求がアメリカで行われ、訴えが認められたのです。

 “作品に対する正当な権利を持つ者” が「著作権侵害」を訴えれば、国家ぐるみでパクリをするような国での訴訟案件ではない限り、まず勝てるでしょう。今回はアメリカ(または日本)なのですから、大手出版社などの対応に問題があったと言わざるを得ないのです。

 

大手出版社は「作品の正当な権利者」ではないから、『ブロッキング』を要求せざるを得ないのだろう

 ところが、大手出版社は『ブロッキング』の導入を要求しています。

 『ブロッキング』を実施するには「検閲」が必須であり、「通信の秘密」を侵害する行為です。そのため、導入には反対論が出ているのですが、出版業界は「緊急避難である」と主張し、『ブロッキング』の導入を強く要望しています。

 このことから、大手出版社は「作品の正当な権利者」ではないとの疑いが浮上します。なぜなら、「正当な権利者」であるなら、漫画村のような海賊版サイトの運営者情報を裁判を通して開示できるからです。

 実際に、大手出版社よりも資金力に劣る漫画家が “個人で代理人弁護士を立てて” 開示請求を行い、情報を得ることに成功しています。

 しかし、作品に対する権利を持っていなければ、訴訟を起こしても要求は認められないでしょう。その認識があるから、「公開停止の要請」や「ブロッキングの導入」という “的外れな対応” しかできる選択肢がなかったと考えられるのです。

 

出版社と漫画家の契約内容における不備を『漫画村』に突かれただけではないのか

 おそらく、大手出版社などが『ブロッキング』を主張する背景は「漫画など出版物の著作権」を保持していないことが大きな要因であると思われます。

  • 漫画家:
    • 作品の著作権を持つ
    • 収入は原稿料(= 基本給)と印税(= 出来高)
  • 出版社:
    • 漫画家に原稿料を支払い、雑誌に掲載
    • 人気漫画家の作品は単行本で収益化を図る

 出版業界における従来のビジネスモデルは「人気単行本で回収する」というものでしょう。著作権は原作者が 100% 保持し、出版社は印税(= 10% 前後)を支払うことと引き換えに単行本化や映像化を行い、“出版社が” 儲けてきたのだと考えられます。

 ところが、インターネットの発達で「海賊版ウェブサイト」という想定外の問題が発生しました。

 デジタル化が一般的になるまでは『他者の著作物』を無断流用しても、収益化することは困難でした。複製や流通に手間暇を要したため、アイデアをパクるぐらいしか使い道がない状態だったからです。

 だから、出版業界は “慣例” に従い、漫画家が持つ『著作権』を軽視し続けてきたのでしょう。その結果、海賊版ウェブサイト問題に出版社が “損害を受けた当事者” として動きたくても動けず、世間からバカにされる対応に終始することになってしまったのだと思われます。

 

 『ブロッキング』を声高に要求する出版社は無視して良いでしょう。なぜなら、“正当な権利保有者” による情報開示請求は裁判で認められるため、出版社が個別に漫画家から著作権を一部譲渡して貰えば済む問題だからです。

 「著作権の5%」を譲ってもらう代わりに「印税を5%上乗せする」など、交渉ができないことはないはずです。従来のビジネスモデルを維持することで収益を確保したい出版社のワガママに付き合う必要はないと言えるのではないでしょうか。