『漫画村』のようなウェブサイトには効果がない「海賊版静止画のダウンロード違法化」を検討する文化庁の方針は問題だ

 漫画や雑誌を無断で掲載する『海賊版サイト』への対策を講じる有識者会議での議論を受け、文化庁が「海賊版だと知りながら漫画や写真をダウンロードすることを違法化」にするための制度設計に入ると朝日新聞が報じています。

 この方針は愚策と言わざるを得ないでしょう。なぜなら、『漫画村』のようなサイトには効果はありませんし、“意図せぬ犯罪者” を大量に生み出す結果になる可能性が高いからです。

 

 海賊版だと知りながら漫画や写真をダウンロードすることを違法化するべきか。文化庁が29日、著作権法を改正するための検討を始めた。音楽や動画ではすでに違法化され罰則もあるが、静止画は対象外だった。来月にも具体的な制度設計に入る。

 (中略)

 文化庁によると、海賊版の漫画や記事の画像、写真などを端末にダウンロードして読む行為のほか、ブログなどに載ったイラストや写真が作者や撮影者の許可を得ずに転載されたと知りながら、ブログの画面をそのまま画像として保存することなども違法行為の対象として検討する。ただ、端末に保存せず見ることができる海賊版には効力がないという。

 記事にしっかりと “オチ” が付いていることがすべてと言えるでしょう。文化庁の方針自体に問題が存在していることが懸念すべき点なのです。

 

アクセスする前の段階で「海賊版サイトか否か」を判断することは不可能

 文化庁が検討している制度は「海賊版と知りながら、漫画が写真という静止画をダウンロードすることが違法になる」というものです。

 ただ、ユーザーが「アクセスしたサイトが海賊版であるか」をすぐに判断することは極めて難しいことです。また、アクセス前の段階で『海賊版サイト』であると判断することは不可能と言えるでしょう。

 そのため、ユーザーが “意図せぬ犯罪者” となってしまい、当局が恣意的に個人を逮捕することが可能になってしまう危うい制度が作られようとしているのです。

 なぜなら、一般的なウェブサイトにアクセスすると、キャッシュという形で『該当サイトに掲載されている画像』が利用端末にダウンロードされます。その画像が『海賊版』に該当すれば、違法行為をしたと認定されるのですから、容疑者が大量に出ることになるでしょう。

 これは「制度設計が間違っている」と言わざるを得ないものです。

 

『漫画村』のような海賊版ウェブサイトは「違法ダウンロード」と無関係

 そして、何より残念なのは文化庁が検討している対応策は『漫画村』のような技術を使う『海賊版ウェブサイト』には何の影響も出ないということです。

 『漫画村』は「漫画や雑誌といった書籍を著作権保有者に無断で掲載しているウェブサイト」です。

 もちろん、これは著作権法に違反する行為です。しかし、『漫画村』が使っている技術は「サイトに掲載されている画像を手元にダウンロードすることなく、(サイト上で)閲覧できる」というものです。

 つまり、「端末にダウンロードする」というプロセスが『漫画村』には存在しないのですから、文化庁が「海賊版に該当する静止画をダウンロードする行為は違法」と法改正したところで、『漫画村のような海賊版ウェブサイト』が痛手を被る事態は起こりえないのです。

 

「海賊版ウェブサイトの運営者を野放しにしている現状を是正すること」に注力すべき

 『海賊版ウェブサイト』の問題は「配布側」に対する取り締まりを強化することが大前提です。それをしない限り、「抜本的な解決」にはならないでしょう。

 現状での最も有効な対策は「海賊版ウェブサイトの運営者を逮捕すること」です。

 なぜなら、『海賊版ウェブサイト』は新たな著作権侵害を続けています。これは人気のコンテンツをアップロードし続けないと、アクセス数が減少し、儲けを手にすることができなくなってしまうからです。

 つまり、運営者を著作権侵害で逮捕することで、『海賊版ウェブサイト』の更新が止まり、新たな著作権侵害を防ぐことができるのです。また、損害賠償請求を行うことで、一定の被害額を取り返すこともできるでしょう。

 しかし、そうした労を惜しみ、出版各社などは「ブロッキング」や「画像のダウンロード違法化」を要求しているのです。やるべき順序を明らかに間違えていると言わざるを得ません。

 

 『密売』が問題として提起されている中で、「密売者に対する取り締まり強化」よりも「密売品を購入した者を逮捕可能にする法整備」に尽力していることと同じです。

 まずは「海賊版ウェブサイト運営者の摘発」など現行法を基にした対処を行わなければなりません。そうした行動を起こすどころか、『ブロッキング』など法的に問題のある行為を要求する出版業界に文化庁が配慮する必要はないと言えるのではないでしょうか。