造船企業に公的資金を投入し、ダンピングに手を染める韓国政府をWTOに提訴することは当然である

 NHK によりますと、日本政府が韓国政府を相手取り、WTO に提訴する方向で進めているとのことです。

 問題の発端は韓国の大手造船企業『大宇造船海洋』です。韓国で “ゾンビ企業” と批判されている企業に多額の税金を投入し、市場の競争原理を歪めてきたのです。提訴に向けた動きが起きることは当然と言えるでしょう。

 

 経営悪化に伴い、韓国政府がおよそ1兆2000億円の公的資金を投入した韓国の大手造船企業「大宇造船海洋」をめぐり、日本政府は、安い価格で船舶の建造を受注し市場価格をゆがめているとして対応を求めてきました。

 しかし先月下旬に行われた日韓の政府間協議でも韓国政府は前向きな姿勢を示しませんでした。

 このため日本政府は、韓国政府の対応はWTO=世界貿易機関の補助金に関するルールに違反しているとして、貿易上の紛争処理を行うWTOの小委員会への提訴の前提となる2国間協議を韓国政府に対して要請する方針を固めました。

 韓国の造船企業が「安値で船舶の建造」を受注していることは事実です。そのため、日本だけでなくヨーロッパからも WTO への提訴を匂わせている状況にありました。

 今回、日本が WTO に提訴するために1歩前進したことがニュースと言えるでしょう。

 

なぜ、韓国政府は『大宇造船海洋』に多額の公的資金を投入するのか

 『大宇造船海洋』は2016年の時点で破綻寸前だったのですが、公的支援を受けたことで今日まで “ゾンビ企業” として生き続けています。

 破綻寸前に追い込まれた理由は「ニーズの変化」です。リーマンショックで世界的な不況となった時、韓国の造船企業は「安い船舶を大量生産すること」で生き残りを図りました。しかし、世界のニーズが『超豪華クルーズ船』へと変化したことで受注量そのものが激減してしまったのです。

 ところが、造船業は大量の雇用者を抱える産業であるため、倒産すると失業者が激増することになります。

 失業率が上げれば、政権支持率は下落するでしょう。この事態を避けるため、パク・クネ政権もムン・ジェイン政権も「ゾンビ企業に飴を与えてどうするのか」と批判を受けようが、公的支援を『大宇造船海洋』に投入しているのです。

 

ダンピングをする国の雇用は守られるが、その影響を受ける国の雇用は失われる

 なぜ、ダンピングが批判を受けるのかと言いますと、「正攻法でビジネスをしている企業の雇用者がきちんと報われない」という事態が起きるからです。

  • 韓国(= ダンピングを実施):
    • 政府:支出は必要だが、労働者の雇用を守れる
    • 当該企業:赤字を出しても、政府が穴埋めをしてくれる
  • 韓国以外の国(例:日本やEU):
    • 政府:企業の業績悪化による失業率アップのリスクが生じる
    • 企業:「原価割れの販売価格」を提示するような企業との勝負を強いられる

 「韓国政府が国内の雇用を守るために手段を尽くすのは当然」と擁護する人もいることでしょう。しかし、ダンピングは「越えてはならない一線」なのです。

 なぜなら、それによって他国の企業が健全経営をすることが難しくなるからです。ダンピングをすることで、“原価割れの販売価格” を提示することが可能になります。そのような条件提示をする企業と市場で戦って生き残れる企業はないでしょう。

 その結果、真っ当なビジネスをする企業が倒産する事態を招き、失業率が悪化することになってしまうのです。そのような問題を防ぐという意味でも、ダンピングに対して厳しい姿勢を採ることは当然といえるはずです。

 

WTO で敗訴となっても、ムン・ジェイン大統領は『大宇造船海洋』への公的支援を止めない

 日本政府が「WTO への提訴」に向けた動きを本格化させた姿勢は評価すべきでしょう。しかし、期待した効果が出るかは懐疑的に見ておく必要があります。

 これは WTO で下される判決が不透明であることに加え、韓国政府が判決を守る保証がないからです。

 特に、ムン・ジェイン大統領は『大宇造船海洋』を “切る” とは考えられません。2018年最初の視察先に『大宇造船海洋』を選び、「構造改革はしない」と宣言してきたからです。

 “雇用人数が多い” と言うことは「労働組合に加入する労働者も多い」ということです。ムン・ジェイン大統領の支持基盤が『労組』なのですから、“ウリ” が痛みを伴う M&A などを用いた造船業の再編を敢行して競争力を付けることはないと断言して問題ないはずです。

 つまり、業界再編ですら強い難色を示す政権が「それよりも痛みを伴うことが確実な WTO の判決を受け入れるとは考えづらい」のです。この認識を持った上で、対応策を練る必要が日本政府にはあると言えるでしょう。

 

 「不正行為に手を染める企業」や「不正を助長するような政策を実行する政府」には同様に厳しい批判をする必要があります。韓国政府が自国の造船企業に対して行っている助成政策については厳しい批判をしなければならないと言えるのではないでしょうか。