「ルノーの筆頭株主は維持」とフランス政府が宣言するも、カルロス・ゴーン会長の逮捕で先行きが不透明になる

 日産自動車のカルロス・ゴーン会長が金融証券取引法違反で逮捕されたと NHK が報じています。

 容疑は役員報酬を約50億円余り少なく記載したというものですが、身柄を拘束されたのですから逮捕容疑の本命は「特別背任」ではないかと考えられます。この点については今後の捜査で明らかになると思われますが、注目すべきは『ルノー・日産・三菱』の企業連合の行く末でしょう。

 なぜなら、ゴーン会長が失脚したことで「連合の深化」を目論むフランス政府が “何らかの要望” を出してくることが予想されるからです。

 

 東京地検特捜部によりますとゴーン会長らは平成23年3月期から平成27年3月期までの5年間のゴーン会長の報酬が、実際には合わせて99億9800万円だったのに、有価証券報告書には49億8700万円と50億円余り少なく記載していたとして金融商品取引法違反の疑いが持たれています。

 「ゴーン会長逮捕」が報じられた19日の時点での容疑は『金融証券取引法違反』でした。ただ、それだけで身柄が拘束されるのは異例のことです。そのため、「 “本丸” は別にある」との見解が逮捕当日から出ていたのです。

 また、当の日産は「重大な不正行為が内部調査で発覚した」とのプレスリリースを発表しています。今後、捜査が進行する中で不正行為の具体的な内容が明らかになると言えるでしょう。

 

絶対君主であるカルロス・ゴーン会長を内部から批判することは困難を極めるという現実

 ゴーン会長の逮捕容疑が「有価証券報告書に虚偽の記載をした」というものですが、「虚偽記載が行われている」という事実を日産の内部が知らなかったということはありません。

 「本来の数字」が “何らかの理由” で変更を強いられるため、どこかで矛盾が生じるからです。また、不正に気づいた(または知っていた)人物が内部にいたから内部告発が行われたのです。

 ただ、絶対君主となっているカルロス・ゴーン会長の不正を指摘することは困難でしょう。

 周囲を『イエスマン』で固め、(日産の)取締役会を牛耳っていたゴーン会長に反することはほぼ不可能です。生殺与奪権を握る人物の不正は “見て見ぬ振り” を打算が働くのは当然のことであり、これはマスコミを筆頭にどの業態でも起きることです。

 「内部告発により、トップの不正に対する自浄作用が機能した」という点は現時点で評価すべきと言えるでしょう。

 

『アライアンス』から『統合』を要求するフランス政府にとっては逆風が強まる展開

 カルロス・ゴーン会長の逮捕で、逆風にさらされているのがフランス政府です。なぜなら、ルノー・日産・三菱の『企業連合(= アライアンス)』をより深化させる『統合』と求めており、その目論見に狂いが生じることになったからです。

画像:ルノーと日産の経営的関係

 フランス政府は「ルノーの筆頭株主」であり、その立場を背景に「フランス国内での雇用情勢」を改善するためにルノーに注文を付けています。マクロン大統領はオランド政権の閣僚時代から積極的に口出しをしており、ルノーを頂点にした『統合』を要求している状況です。

 しかし、実現は難しい状況でした。

 まず、現在のルノーは「日産のお荷物」と化しています。そのため、フランス政府が思い描くプランを実現しようとすると、日産側の反発が起きることが容易に想定できます。

 また、アライアンスの収益性が悪化することが明確だったため、巨額報酬を得る根拠を失うことを意味するカルロス・ゴーン氏も『統合』には消極的でした。ただ、ルノーCEOを続投する際、フランス政府の意向にゴーン氏は従っています。

 そのため、今回の逮捕劇はフランス政府にとっては痛手になると言えるでしょう。

 

『ルノー・日産・三菱アライアンス』のパワーバランスが揺れ動くことは確実

 現状では『ルノー・日産・三菱アライアンス』は “いびつな統治体系” となっています。資本的にはルノーに支配権があるのですが、企業能力は日産の後塵を拝する状況だからです。

 ゴーン氏が逮捕前の役職に返り咲く可能性はゼロに低いため、アライアンスのパワーバランスが大きく揺れ、統治体系が変化することも想定内だと言えるでしょう。

 おそらく、日産は「ルノー株を10%買い増す」という “脅し” と使い、「アライアンスのボスは日産」との立場を確固たるものにするために動くことが予想されます。

 日産がルノー株を 10% 買い増すことで、25% となり、日本の会社法で「ルノーの日産に対する議決権は消滅」します。これにより、フランス政府がルノーを介した日産への経営関与を排除できるのです。

 カルロス・ゴーン氏は “コストカッター” との異名を取りましたが、研究開発部門など利益に直結しないと決めつけられた部署の給与水準などが大きく引き下げられているはずです。CEO など外国人のトップが私腹を肥やしていた反動がグループ内に現れるのはこれからが本番と言えるのではないでしょうか。