自民党・岸田政調会長は「優秀な人材」と「単純労働者」を混同し、『外国人材受け入れ制度拡充』を訴えているのではなかろうか

 産経新聞によりますと、自民党の岸田政調会長が11月18日に富山市で行われた党の会合で「外国人材を受け入れる制度を作るべき」と訴えたとのことです。

 ただ、「優秀な人材」と「単純労働者」を混同した主張となっていることが問題と言えるでしょう。なぜなら、優秀な外国人材は “現行の法制度” を利用して、日本国内で就労するための『労働ビザ』を容易に獲得することができるからです。

 

 自民党の岸田文雄政調会長は18日、外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法などの改正案について、早期成立を目指す考えを強調した。富山市の党会合で「全国で深刻な人手不足が問題になり、国際社会では優秀な人材の争奪戦が始まっている。日本も外国人材を受け入れる制度を作るべきだ」と述べた。

 岸田政調会長の発言は2つの事象を混同した内容だと言わざるを得ないでしょう。なぜなら、“余人をもって代えがたい外国人材” に対する『労働ビザ』の発給は現行制度で既に行われているからです。

 争奪戦が起きるどころか、厄介者と化している “出稼ぎ型の労働者” とは一線を画しているという現実から目を背けていることが問題と言えるでしょう。

 

世界中で争奪戦が起きているのは “余人をもって代えがたい優秀な外国人材”

 「外国人材の受け入れ拡充」について問題なのは与野党ともに論理が破綻していることでしょう。

  • 外国人材:
    • 余人をもって代えがたい優秀な人材:
      • 世界中で争奪戦が発生中
        → 日本は言語や報酬面で劣勢
      • 日本の現行制度で『労働ビザ』を得ることは容易
      • 与野党ともに言及は少ない
    • 受け入れ国の国民でも代えが効く人材:
      • 争奪戦は起きず
        → 社会保障のタダ乗り等が問題化
      • 日本の現行制度では『労働ビザ』を得ることは困難
      • 与党:「人手不足」を理由に来春より解禁を目指す
      • 野党:「外国人との共存共生」を求めて与党案に反対

 “余人をもって代えがたい” と見なされた優秀な外国人材には『労働ビザ』が発給されています。これは大手企業の経営陣に外国人材が増加していることもあり、誰もが理解することでしょう。

 しかし、国会で議論が行われているのは「優秀な外国人材の受け入れ」についてではありません。「受け入れ国の国民(= 日本人)でも代えが効く外国人材への新規滞在ビザの発給」が議題となっているのです。

 彼らを巡る争奪戦は世界で起きてはいませんし、不法滞在や社会保障へのタダ乗りで社会問題を引き起こすリスクの高い外国人材なのです。与野党ともに “都合の悪い部分” から目を背けた議論など、茶番と言わざるを得ないでしょう。

 

「技能実習制度」は “現行制度” 上での問題であり、「出入国管理法の改正」とは無関係

 野党(とマスコミ)が致命的なのは国会に提出された法案が「『出入国管理法の改正』に基づく、外国人材の受け入れ拡充」であるにも関わらず、無関係な『技能実習制度』で騒いでいることです。

 これでは議論が噛み合わず、国会が空転する原因となります。技能実習制度の問題は以前から指摘されていたことであり、野党やマスコミが森友・加計問題で騒いでいた時も進行形で発生していたことです。

 与党が提出した「出入国管理法の改正案」に反対する理由として、野党が『技能実習制度』を持ち出すのは筋悪と言えるでしょう。

 なぜなら、「技能実習制度の問題は別途改善します」と与党は述べることができますし、「提出した法案の内容に対する野党からの反対はありませんでした」と主張する大義名分を与党が手にすることになるからです。

 法案に “穴” が散見されているにもかかわらず、それを正面から指摘・批判ができない野党の姿勢は問題と言わざるを得ません。その姿勢を擁護するマスコミも同様と言えるでしょう。

 

「岸田政調会長の発言」を指摘し、野党は「法案の早期成立が不要」であることをアピールすべきだ

 野党が今秋の臨時国会で追求すべきは岸田政調会長の発言に代表される「与党自民党の誤った認識」でしょう。その上で、「法案成立は時期尚早である」と批判すべきなのです。

  1. 「与党は『優秀な外国人材』と『単純労働者』を混同し、外国人材の受け入れ拡充を主張している」と批判
  2. 岸田政調会長の発言を引き合いに「法案成立を急ぐ意味はない」と反対姿勢を表明
  3. 「不法残留者の取り締まり強化には賛成」と譲歩の姿勢を示す
  4. 与党が法案を可決した場合は「明らかな強行採決」との批判を続ける

 与党案が雑なのですから、その点にスポットを当て、継続審議を要求すべきです。その際、「不法残留者の取り締まり強化」に直結する内容には賛成し、まずは『入国管理庁の創設』を先行すべきと訴える必要があります。

 その上で、「外国人材の受け入れ拡充については通常国会で十分な審議を尽くすべき」と主張すべきなのです。

 なぜなら、そうしたプロセスを踏んで置くことで与党側が審議を打ち切った場合に「議論を避けて強行採決に踏み切った」との主張に正当性があると有権者が判断してくれるからです。こうした “王道” を野党が選択しないから、支持率が低迷したままなのです。

 

 “雑な内容の法案” を国会で指摘できない野党に政権を預けることは極めてリスクが大きいと言えるでしょう。『代えの効く単純労働者』を『優秀な人材』かのように誤認させて、法案の早期成立を目指す与党・自民党を正面から指摘し、継続審議に持ち込むことができるかが焦点と言えるのではないでしょうか。