イギリス議会で『EU 離脱協定案』の審議が始まるも、可決の見通しは低い状況

 NHK によりますと、EU との離脱協定案に合意したイギリス・メイ首相が議会の承認を得るための審議を開始したとのことです。

 ただ、イギリスにとっては不利な内容の離脱協定案であり、議会の承認を得ることは難しいと言わざるを得ないでしょう。なぜなら、「与党を上回る離脱者を野党から出させること」が条件になるからです。

 

 イギリスとEUは、アイルランドとの国境問題などEUからの離脱の条件を定めた離脱協定案について先月合意し、それぞれの議会で承認を得ることになっています。

 (中略)

 メイ首相はEUと合意した離脱協定案について「国民投票で示された国民の意思を実現させるものだ」として支持を呼びかけています。

 しかし、野党・労働党の議員に加えて、与党からも合意の内容に対する反対の声は根強く、議会の承認を得られるかどうか、不透明な情勢です。

 審議は合わせて5日間行われ、今月11日に採決が行われる予定です。

 

“離脱反対派” は『離脱協定案』に反対する

 EU 離脱問題で厄介なのは「離脱反対派」と「離脱賛成派」の双方が『離脱協定案』に反対することでしょう。

  • 離脱反対派:離脱協定案が可決されると「離脱」が決定するため、『反対』する
  • 離脱賛成派:離脱条件が割に合わないことを理由に『反対』する可能性あり

 イギリス政府が EU と合意した『離脱協定案』は離脱賛成派が「割に合わない」と感じるものであり、与党・保守党の内部からも反対意見が噴出しているのです。

 また、保守党は少数与党であり、議会で過半数を保持していません。『離脱協定案』を可決するには「保守党に所属していない議員を切り崩すこと」が不可欠なのですが、与党内からの造反でハードルが高くなっている状況と言えるでしょう。

 

野党・労働党の議員から『離脱協定案』への賛同を得ることは簡単ではない

 メイ首相は『離脱協定案』を可決させるためには「労働党を始めとする野党議員から賛同者を多数得ること」が欠かせません。ただ、野党議員には『離脱協定案』に積極的に賛同する意味がないのです。

 まず離脱反対派は迷わず「反対」することでしょう。『離脱協定案』が成立すれば離脱が正式に決定してしまいますし、「離脱通知の一方的な撤回は可能」と EU 司法裁判所の法務官が示しています。

 したがって、「『離脱協定案』をイギリス議会で否決し、『離脱通知』を一方的に撤回する」との戦術を採ることが離脱反対派にとって合理的であり、鞍替えする可能性は低いと考えられます。

 次に、野党に所属する離脱賛成派も『離脱協定案』には「反対」することでしょう。こちらは「メイ首相に手柄をプレゼントする必要がない」ことが大きな理由です。

 また、『離脱協定案』の内容がイギリスにとって不利なものになっています。そのため、「国益に反している」と正面から批判できますし、それが有権者へのアピールになる訳ですから妥協をする価値がないのです。

 

「ハード・ブレグジット (= 合意なしの離脱)」か「EU 残留」の『二者択一』になる可能性大

 『離脱協定案』が成立することは「ソフト・ブレグジット(= 合意ありの離脱)」になる訳ですが、そうなる可能性は現時点では非常に低い状況です。

 連立パートナーの民主統一党は全員が反対するでしょうし、保守党に所属する議員も一定の造反が見込まれます。野党議員には切り崩し工作に応じるメリットが乏しく、『メイ首相が取りまとめた離脱協定案』を支持する理由にはなりません。

 その結果、「ハード・ブレグジット (= 合意なしの離脱)」か「離脱通知撤回による EU 残留」のどちらかを選択することを迫られることになると考えられます。

 採決は11日に行われる予定とのことですが、1週間で野党議員を切り崩すことはかなり難しいと言えるでしょう。メイ首相の立場はドイツ・メルケル首相と同様に厳しい状況に追い込まれると言えるのではないでしょうか。