OECD が定年制と賃金制度の見直しを提言、『定年制度の撤廃』は『解雇制度の導入』の裏返しである

 NHK によりますと、OECD (= 経済協力開発機構)が「日本の高齢者は不安定で賃金の低い非正規雇用で働くことが多い」との理由で定年制や賃金制度の見直しを提言したとのことです。

 ただ、この提言がそのまま受け入れられることはないでしょう。なぜなら、従業員の解雇が認められていない日本では『定年制度』が “唯一の合法的な解雇方法” だからです。

 「高齢者に対する雇用環境が良好になること」の引き換えは「現役世代の労働者も解雇されるリスクを背負うこと」になると言えるでしょう。

 

 政府が社会保障改革の一環として高齢者の継続雇用年齢の引き上げを検討する中、OECDは、日本の高齢者雇用の現状や改善すべき点について提言をまとめました。

 提言では「日本は高齢者の就業率が最も高い国の一つだが、いったん定年で仕事を辞めたあと、不安定で賃金の低い非正規雇用として再雇用されるケースが多い」として、継続雇用年齢を70歳に引き上げても同じ課題が残ると指摘しています。

 そのうえで、カナダなどのように定年制度をなくすことの検討や、業績や能力給を取り入れるなど、働きに見合った賃金制度への見直しを進めるべきだとしています。

 

『従業員の解雇』が実質的に不可能だから、『定年制度』が存在する

 まず、日本型の雇用制度を踏まえず、「高齢者の雇用環境」を向上させようとするのは “愚の骨頂” です。

  • 年功序列に基づく報酬体系
  • 『解雇4要件』が存在するため、従業員の解雇はほぼ不可能
  • 定年制は存在

 年功序列であるため、賃金は「勤続年数に応じて上昇」します。勤続年数と業績が一致する “職人モデル” の仕事が多かった時代は問題なかったのですが、機械化が進んだ現代では勤続年数と業績に乖離が生じるようになったのです。

 特に、IT 技術の進歩で『仕事の密度』が高まり、コストパフォーマンスが悪い社員が浮き彫りになりました。そうした社員は解雇されるべきなのですが、解雇ができない日本では対象者が定年を迎えるまで我慢するしか企業が生き残る道はありません。

 この現実を認識した上で、“高齢者の雇用環境” を考える必要があると言えるでしょう。

 

『定年制度の撤廃』は『解雇制度の導入』の裏返し

 まず、定年制度を撤廃すると「企業主導での従業員の入れ替え」は不可能になります。従業員が「働く」と主張すれば、どれだけ貢献度が低い従業員でも会社に残り続けることが可能になるからです。

 しわ寄せは “仕事ができる人物” に行くことでしょう。しかも、「仕事の穴埋め」が要求されるため、報酬面などで報いられる可能性は低いと考えられます。また、出来の悪い社員のカバーをできるだけの人材を抱えていない企業は業績不振に陥るはずです。

 こうした問題を引き起こさないための方法は「従業員を入れ替えること」であり、『欧米型の解雇』または『日本型の定年』のどちらか厳格に採用せざるを得ないのです。

 したがって、“解雇不可能な雇用体系” に “定年の撤回” を導入すれば、企業は競争力を失うことでしょう。なぜなら、20年前の技術が今も業界の最前線で活躍し続けているというケースはほとんどないからです。

 そのため、どのような従業員であっても解雇・定年の対象外に置かれる制度は改善ではなく、改悪と言わざるを得ないでしょう。

 

有能な人材を年齢に関係なく報いるために解雇および賃金制度を見直すべきでは?

 日本の場合は「年功序列の恩恵を享受しすぎた中高年のお荷物社員」が雇用上の問題となっています。コストパフォーマンスが入社 2〜3 年目の従業員の半分未満というケースも珍しくないでしょう。

 現状では “お荷物社員” の入れ替えは不可能であり、『定年』が来るのを待つしか企業側には選択肢はないのです。

 これでは多くの人が不幸になるだけでしょう。本来の仕事を他者に押し付けて、給与だけは周囲よりも多く持っていく “お荷物社員” だけが得をする仕組みだからです。

 コストパフォーマンスに見合った報酬体系が構築されているなら、従業員の年齢にスポットが当たることはないでしょう。また、定年制度が撤廃され、解雇制度が導入されたとしても、文句は出続けるという事態にはならないと考えられます。

 

 減給や解雇のない雇用制度が存在する状況下で定年制度が撤廃されるのは若者の雇用情勢にとっては大きな逆風となります。なぜなら、雇用枠が現状よりも少なくなると想定されるからです。

 したがって、「高齢者を非正規雇用で雇うべきでない」と主張するなら、「現役世代で “お荷物” と化している従業員を解雇・減給にすることを可能にすべき」とセットで要求しなければなりません。

 それができないなら、若者の雇用情勢を悪化させるだけの愚策を主張しているに過ぎないとして厳しい批判にさらされるべきと言えるのではないでしょうか。