「契約期間満了」による “派遣切り” を『解雇』という位置づけで批判する朝日新聞

 朝日新聞の沢路毅彦編集委員が「派遣切りで解雇された人が10年経過した現在も企業に対して謝罪を求めて戦っている」との記事を書いています。

 ただ、この記事には問題があると言わざるを得ないでしょう。なぜなら、朝日新聞が問題視している “派遣切り” は『解雇』とは別物だからです。この記事の主張内容では世間に共感は広がらないと言えるでしょう。

 

 12月初めには、契約更新を打診された。

 派遣会社の担当から雇い止めの通告を受けたのは、12月中旬。突然だった。「いくら仕事ができても、派遣は弱い立場なんだ」

 派遣会社が用意していた退職届にサインし、09年1月に職場を去った。

 (中略)

 リーマン・ショックも「自分は関係ない」と思っていた。派遣会社の担当者とは次の契約の話をしていたところだったからだが、それでも「派遣切り」された。

 納得できないと説明を求めたが、日産の人事担当者は何も説明しない。ほかに日産で働いていて雇い止めになった労働者とともに、雇い止め無効を求めて裁判を起こした。最高裁まで争ったが敗訴した。

 朝日新聞が記事で紹介しているのは2人の事例です。両者とも「次回の契約」が打診されていたものの、締結までには至らず、職場を去ることになったのが共通点と言えるでしょう。

 これを「解雇」として扱うには無理があるのです。

 

「契約期間が満了すれば、両者の関係は清算される」のが当たり前

 まず、契約には「期間」が設定されていることが一般的です。労働者の雇用契約・新聞の購買契約・家屋の賃貸契約など『期間を伴う契約』は身近に存在しています。

 また、『利用者から打ち切りの申し出がない限り、半永久的に続く契約』というものも存在します。これはサッカー・Jリーグの独占放映権を持つ DAZN が採用している方式で、有料コンテンツを配信する事業者に良く見られる契約形態です。

 朝日新聞が記事にした派遣契約は『期間を伴う契約』であり、「契約期間が満了すれば、両者の関係は終わる」という性質のものです。

 「労働者が期日までに継続雇用を希望した場合、契約期間は〇年延長される」というオプションが派遣契約に付随していれば、解雇問題と言えるでしょう。しかし、そうしたオプションが付随していないなら、“フリーエージェント” になったに過ぎないのです。

 

契約期間内に契約を打ち切られた場合が「解雇」である

 “派遣切り” の問題を具体的に考えるには「プロ野球の助っ人選手」を例に出すと分かりやすいでしょう。3年契約を締結した助っ人選手のケースで考えてみることにしましょう。

  1. 2シーズンを終えた時点で切られる
    → 契約期間を1年残しており、「解雇」に該当
  2. 3シーズンを終えるも、新規契約を得られず
    → 契約期間は満了しており、「解雇」には該当せず

 「契約期間」が残っている状態で雇用契約(= プロ野球の場合は所属契約)が打ち切られることになれば、これは「解雇」に該当します。しかし、契約期間が満了していれば、それは「解雇」ではありません。

 「来シーズンの構想に入っていない」から新規契約が打診されなかったという場合もありますし、「新しい契約内容で両者が合意できず」に新規契約が締結できなかったという場合もあります。

 いずれにせよ、契約期間が満了した時点で、“派遣契約を有していた人物の立場” は求職市場にいる他の労働者と同じ立場に戻るのです。『失効した過去の契約』を理由に「継続的な雇用」を要求するスタンスは世間の共感を呼びにくいと言わざるを得ないでしょう。

 

“派遣切り” を批判するなら、まずは朝日新聞が「非正規雇用で働く全員を正社員契約に転換」して手本を示すべき

 朝日新聞は “派遣切り” を批判していますが、その論調を展開するのであれば、自らが手本を示すべきです。

  • 朝日新聞社の非正規雇用従業員約800名(2017年3月31日期の有価証券報告書の数値)を正社員に転換する
  • 連結子会社からの “派遣” を止め、朝日新聞社による正社員雇用を行う
  • 連結子会社の非正規雇用従業員約2500名を正社員に転換する

 この3点を実施し、世間に対して『派遣切りを止めた成功例』を示して欲しいところです。「派遣切り問題」で他社を批判する大手マスコミが自社では「派遣労働者」を使っているようでは主張内容に説得力がないからです。

 派遣切りとは無縁の正社員のみで構成された企業が良い業績を出し続ければ、他の企業も即座に見習うことでしょう。「先ず隗より始めよ」です。自社内で実際に取り組みを始めていれば、的外れな記事を掲載して世間の失笑を買うこともないはずです。

 非正規雇用の従業員を使っている立場でありながら、そのことを棚に上げた記事を書くことは止めるべきだと言えるのではないでしょうか。