日立が「採算性」を理由に風力発電機の自社生産から撤退、再生可能エネルギー産業も総崩れの状況へ

 日立製作所が風力発電事業の再編を発表したと日経新聞が報じています。

 「採算性」を理由に発電機の自社生産から撤退し、保守・運営サービスに重点を置くことで収益力を高める方向に舵を切ったとのこと。原発だけでなく、再生可能エネルギーも逆風にさらされていると言えるでしょう。

 

 日立製作所は25日、風力発電事業を再編すると発表した。風力発電機の自社生産から撤退し、代わりに提携先の独大手エネルコンからの調達を拡大する。高コストな自社生産をやめ、調達先を一本化し事業の効率化を図る。風力事業自体は引き続き注力分野と位置づける。デジタル技術を活用した予測診断など保守・運営サービスで収益力を高める。

 (中略)

 日立は海外の風力発電メーカーを買収する計画だった。18年6月にはこの買収を前提に再生可能エネルギー事業の売上高を足元の800億円から4千億円に高める目標を掲げた。しかし金額など希望する買収条件に合致する案件が見つからず、買収を取りやめた。当面は同事業で1千億円規模の売上高を維持しながら利益率を高める。

 

“高コストで1000億円が売上目標の部門” への経営資源の重点投下を要求する反原発派

 日立がイギリスでの原発プロジェクトの凍結を発表した際、反原発派は「採算性」を理由に「原発産業は終わった」と述べ、再生可能エネルギー産業への方針転換を主張しました。ただ、再生可能エネルギー産業も「採算性が合わない」という現実があったことを見落としていたのです。

  • 電力・エネルギー事業の売上高見通し4260億円(2019年3月期)
  • 再生可能エネルギー事業の売上高:800億円
    • 海外の風力発電メーカーを買収し、売上高4000億円を目指す計画を立案
      → 買収条件に合致する企業はなく、頓挫
    • 当面の売上高目標は1000億円
    • 自社生産だと高コストという問題点あり

 1兆円規模のプロジェクトである原子力発電を捨て、現状では「売上高1000億円が目標」の再生可能エネルギーに経営資源を重点投入することはギャンブル以外の何物でもありません

 しかも、日立の場合は「高コスト」という日本国内の工場が抱える弱点に加え、「開発の遅れ」という問題点もある状況なのです。風力発電は日本の国土・気候に適した発電手法ではありませんし、採算性を理由に日立が事業再編を判断するのは適切と言えるでしょう。

 

風力発電は「年間を通して安定して風が吹く地域」に適した発電手法

 風力発電が適しているのは「年間を通して安定した風が特定の方向から吹き続ける地域」であり、「風が吹く地域」ではありません。

 日本は季節風が吹く気候であり、風力発電が適した国とは言えません。風力発電の先進国は “偏西風” が年間を通して吹き続けるヨーロッパであり、環境面で決定的な差があります。

 風力発電に適した環境が最初からあるのですから、風力発電機の研究・開発に乗り出す企業が生まれやすい土壌となります。また、実証実験をする土地探しに苦労することも少なく、大量生産でコストを引き下げることも可能であるため、市場での競争力を有することになります。

 しかし、“日本の風力発電機メーカー” はヨーロッパのような恵まれた環境ではないのです。しかも、日本国内で製造すれば、日本の高い人件費によって自らの競争力を削ぐ結果になっていまうのです。

 有望な販売先を事前に確保でもしていない限り、多額の経営資本を浪費するだけに終わる可能性が高い風力発電機の研究・開発に日本の企業が注力する動機はないと言えるでしょう。

 

“日本の風力発電事業者” が「風力発電の将来性」を評価しているのであり、風力発電機メーカーではない

 反原発派は「これからは再生可能エネルギーの時代」と主張していますが、その声に賛同しているのは『再生可能エネルギーを用いた発電事業者』です。

 再生可能エネルギーは FIT の対象になっているため、発電事業者が「将来有望」と宣伝するのは当然でしょう。その際、発電事業者は最もコストパフォーマンスの良い機材を選択します。

 これは経営的な判断として当然のことですが、発電した電力が市場の原理によって価格決定がされるのではないため、安い海外製の発電機を利用する事業者が日本の電力消費者に高額な電気の “押し売り” が認めれている状況にあるのです。

 他社が整備したインフラにタダ乗りするほど収益が上がるの発電事業者と発電機メーカーの立場は全く異なります。風力発電などの再生可能エネルギー産業が本当に有望なら、日立の再生可能エネルギー事業を丸ごと買収することを目論む発電事業者が現れることも考えられるでしょう。

 しかし、そうした事業者は皆無なのです。再生可能エネルギーも「エコ」という幻想に期待するメディアなどによって過大評価された産業であり、原発と同様に逆風が吹き付けていると言えるのではないでしょうか。