「大坂なおみ選手が『テニス選手としてアメリカ国籍を選択すること』は不可能」という事実を無視した二重国籍容認論は筋悪

 大坂なおみ選手が全米オープンに続いて全豪オープンも制し、グランドスラム2連勝を達成しました。

 新女王として “自らの時代” を作る可能性が極めて高い選手になったと言えるでしょう。ただ、複数国にルーツを持つ背景を持った選手であるため、大坂選手を引き合いに出すことで『二重国籍容認論』を展開しようする人物が目に付きます。

 しかし、これは筋悪です。なぜなら、大坂選手のテニス選手としての国籍は「日本」であり、これを「アメリカ」に変更することは不可能だからです。この事実を無視した『二重国籍容認論』は害悪以外の何物でもないと言わざるを得ないでしょう。

 

テニス選手の登録国における二重国籍は認められず、変更も認められない

 「テニス選手」と「個人」は別物です。『テニス選手の国籍』は ITF (= 国際テニス連盟)の規則が採用される一方、『個人の国籍』は国の法律が適用されるのです。

 “テニス選手・大坂なおみ” という視点で見た場合、国籍に該当する登録国は日本です。

 ITF は2015年1月1日から「登録国の変更は不可」にルールを改正しており、登録できるのは1カ国だけです。大坂なおみ選手は女子の国別対抗戦であるフェドカップに2017年の時点で出場しているので、アメリカに登録国を変更することはできないのです。

 「できない」と断言できる根拠は「登録国の変更を求めた選手が裁判で敗訴した」という事例があるからです。

 スロベニア出身のアルヤズ・ベデネ(Aljaz Bedene)選手はイギリス国籍取得後に「登録国をイギリスに変更すること」を ITF に申請しました。しかし、ITF は「スロベニア代表としての出場歴があること」を理由に変更申請を拒否。訴訟でもベデネ選手は敗れました。

 つまり、アメリカ国籍を獲得した大坂なおみ選手が「登録国の変更」を申請しても、ベデネ選手と同じ結果になることは確実です。したがって、二重国籍とは何の関係もないことを認識する必要があるでしょう。

 

多重国籍保有者は原則として22歳の誕生日までに「日本国籍をどうするか」を決める必要がある

 ところが、大坂なおみ選手を引き合いに出して二重国籍容認論を主張する人々は「テニス選手」と「個人」を都合良く混同しています。

  • テニス選手:
    • 国籍に当たる登録国を ITF に申請
    • 登録できるのは1カ国のみ
      → オリンピックの出場枠が「1カ国で最大4選手のため」
    • 登録国の変更申請が認められた前例なし
  • 日本国籍を保有する個人:
    • 原則として、多重国籍を保有することは不可
    • 22歳の誕生日までに日本国籍のどうするかの判断が義務
    • 国籍離脱が認められないなどの特別な事情がある場合は可能

 大坂選手は「(個人として)日米の二重国籍だから、(テニス選手としての)登録国を日本にしている」のではありません。

 「大坂選手がアメリカ国籍を選択したら損失だ」と主張している人は「アメリカ国籍を選択すると、テニス選手としての登録国も自動的にアメリカになる」と勘違いをしているのでしょう。しかし、そのようなことは起こり得ないのです。

 仮に、大坂選手がアメリカ国籍を選択しても、テニス選手としての登録国は日本のままです。それほど目くじらを立てる必要はないと言えるでしょう。

 

アメリカ・フロリダ州が居住地の大坂なおみ選手は現時点で “税制上のアメリカ人”

 また、大坂なおみ選手は錦織圭選手と同様にアメリカ・フロリダ州に生活拠点を置いています。そのため、税制上はアメリカ人と見なされる条件を満たしていると考えられるため、アメリカ人と同じ納税義務を現時点で負っていることでしょう。

 つまり、現在の “生活拠点” を大坂選手が変えない限り、日本国籍を選択する意味は見当たらないのです。

 テニス選手としては「日本」として扱われます。どの国の国籍を最終的に選択したかはプライベートなことであり、政治家になる考えを示していないなら、メディアが取材の対象にする必要すらないことです。

 拠点がフロリダ州である大坂選手の納税先は現在でもアメリカです。大坂選手が日本に活動拠点を置かない限り、この状態は変わらないのですから、納税面で日本が被るデメリットはそもそも存在しないのです。

 

 大坂選手が “個人として” どの国籍を選択するかは「個人の自由」です。どのような決断を下したとしても、尊重されるべきでしょう。

 どちらの国の国籍を大坂選手が選択したところで、日本国が得られるメリットもデメリットもないことが現実なのです。

 騒いでいるのは「大坂選手のネームバリューを使って自らの政治的意見を主流派の見解にしたい人たち」でしょう。“王朝” を築く可能性が現実味を帯びた選手を純粋に応援しているテニスファンの邪魔になる行為は慎むべきだと言えるのではないでしょうか。