エアバスが超大型旅客機『A380』の生産中止を発表、大量輸送だけではデメリットをカバーできない現実が浮き彫りとなる

 航空機メーカーのエアバスが「超大型旅客機『A380』の生産中止」を発表したと日経新聞が伝えています。

 1度に500人以上を輸送できることが最大のセールスポイントだったのですが、弊害部分をカバーし切れなかったことが受注低迷の理由になったと言えるでしょう。“超大型” であったが故、大型旅客機とは別の問題があったのです。

 

 欧州エアバスは14日、超大型旅客機「A380」の生産を中止し、2021年以降は納入しないと発表した。格安航空会社(LCC)の台頭とともに世界の航空機市場が小回りの利く小型・中型機主導の時代に変わり、受注の低迷が続いていた。

 A380は総2階建てで約500席を持つ世界最大の旅客機。「空飛ぶホテル」とも呼ばれ、07年から商業飛行を始めた。18年末までに約230機を納入していたが受注が伸び悩み、たびたび生産打ち切りの観測が出ていた。

 18年末時点で80機超の受注残があったが、最大の顧客だったエミレーツ航空(アラブ首長国連邦)が約40機分の発注をキャンセルして中型機などに切り替えた。

 

超大型旅客機は「輸送可能人員数」が最大の魅力

 『A380』のような “超大型旅客機” が持つ最大の利点は「大量輸送」でしょう。エアバス社のベストセラー機である『A320』と比較すると、以下の違いが存在します。

A320 A380
定員 1クラス:164名 525名
(3クラス)
2クラス:150名
最大離陸重量 78トン 560トン
巡航速度 マッハ 0.82 マッハ 0.85
航続距離 6100 km 15200 km
離陸滑走距離 1650m 3030 m

 1度に500人以上の乗客を輸送できる上、航続距離も 15000km 以上と「長距離便」に適した機材です。

 ただ、問題がない訳ではありません。その1つは「大量の人々が常時行き交うニーズのある路線」でないと採算が合わないことです。輸送業は運賃収入が基本ですので、空席が増えるほど損失が多くなります。

 そのため、「満席状態の A380 をどれだけ稼働させることができるのか」が経営上の損益分岐点となるのです。

 

「A380 の “異質さ” が『空港のフル稼働』を阻害する」という思わぬ弊害が存在する

 A380 をフル稼働させようとすると、周囲に弊害が生じてしまうのです。この問題を無視することはできないと言えるでしょう。

  • 滑走路は少なくとも 3000m、できれば 3500m が望ましい
  • 「超重量級」の機材であり、空港の地盤に制約がかかる
  • 総2階建てのため、従来の搭乗橋では乗降時間が長くなる
  • 後方乱気流が大きく、飛行間隔も広げる必要がある

 A380 は利用可能な空港が限定される上、機体が通過した後に生じる後方乱気流が収まるまでの時間も多く要します。そのため、後方機との飛行間隔を広げなければなりません。

 つまり、A380 がフル稼働するほど、発着空港の稼働効率は悪化するのです。場合によっては「地盤改良」や「搭乗橋やターミナルゲートへの投資」も必要になるため、航空会社よりも空港が難色を示しやすい機材だと言えるでしょう。

 

「ハブ空港間の大量輸送」より「直行便」の魅力は大きい

 超大型機である A380 を活用して収益を出すには「ハブ空港間での大量輸送」をメインにする必要があるでしょう。そのため、ドバイ空港を『ハブ空港』とするエミレーツ航空が大量保有をしていたのです。

 ただ、大量輸送のニーズが常時存在するハブ空港間の路線は多くありません。なぜなら、“ドル箱路線” は競合他社との競争になっていると考えられるからです。

 アライアンスに加入する航空会社同士の潰し合いはありませんが、「アライアンス間の潰し合い」は存在します。500人超を1度に輸送できる超大型機を投入するより、300人前後を輸送できる中型機を投入した方が他の路線にも転用できるため合理的と言えるでしょう。

 また、「直行便」の持つ魅力は大きいものがあります。乗り継ぎは「空港での待ち時間」が発生するため、海外旅行経験者は「乗り継ぎは避けれるなら避けたい」と考えるでしょう。そのため、中規模の都市間を直結することができる小・中型機のニーズの方が強くなるのです。

 経済性を踏まえると、運用方法に制限の多い超大型旅客機が苦戦を強いられるのは当然の結果と言わざるを得ないでしょう。ロマンだけでは乗り越えられない現実問題をシビアに考える必要があると言えるのではないでしょうか。