“プロ野球選手になれる才能を持った子供” にはトーナメント制と金属バットは弊害だが、大多数は現状維持でも困らない

 横浜 DeNA ベイスターズに所属する筒香嘉智選手が野球をする子供たちが置かれている環境を憂う主張を行ったと『文藝春秋』が報じています。

 筒香選手が指摘する問題が存在していることは事実でしょう。ただ、影響を受けているのは “プロ野球選手になれる才能を持った子供たち” に集中しており、絶対数が少ないという特徴があります。

 つまり、大多数の野球少年は「プロ野球選手予備軍」に名乗りを上げる実力が備わっていないことで、問題による影響を受けずに済んでいるという実態もあるのです。この点に留意した改善策でなければ、野球界は行き詰まることになるでしょう。

 

 筒香は現在の青少年の野球界に「勝利至上主義」が蔓延しており、子供たちの健康や、野球を楽しむ気持ちよりも、「勝つこと」が優先されていると指摘。トーナメント制の大会が故障の原因となっており、球数制限も導入すべきだと訴えた。

 (中略)

 そんな折、渦中の筒香がジャーナリスト・鷲田康氏のインタビューに応え、あらためて野球界への提言をおこなった。そのなかでは、高校生が金属バットを使うことの問題点にも踏み込んで語っている。

 「高校野球を見ていて、ずっと選手にとってマイナスではないかと思うことがあります。それは飛びすぎる金属バットの弊害です」

 

トーナメント制の弊害を大きく受けるのは “強豪チーム” であり、弱小チームには関係のない話

 トーナメント制に問題があることは事実です。リーグ戦は「敗け」が許されますが、トーナメント戦では許されません。敗けが「大会から去ること」を意味しているからです。

 そのため、優勝や上位進出を狙えるチームほど『勝利至上主義』が蔓延しやすい土壌があるのです。

 ただ、忘れてはならないのは「トーナメント制の大会では1回戦で参加チームの半分が姿を消している」という事実です。ほとんどのチームは酷使される前に敗退しているのです。1〜2 試合での故障が問題視されるべき状況であるなら、練習内容を見直す必要があるはずです。

 

アマチュア野球界でリーグ戦を導入することは金銭的なハードルが高い

 『勝利至上主義』と『投手の酷使』はどちらもトーナメント制の弊害です。これを改善するには「リーグ戦方式に移行すること」なのですが、金銭的に難しい状況にあります。

表:8チームが参加した大会の試合数
トーナメント戦 リーグ戦
全試合数 7試合 28試合
チーム別の
試合数
1試合(4チーム)
2試合(2チーム)
3試合(2チーム)
7試合
(全チーム)

 8チームが参加するトーナメント戦の全試合数は7試合ですが、リーグ戦だと全28試合と4倍になるのです。

 「7試合分の球場を抑えること」と「28試合分の球場を抑えること」の負担も単純に4倍です。(しかも、消耗品の代名詞であるボールは最低でも2倍は必要)

 入場料・放映権料・スポンサー料が見込めるプロスポーツなら費用負担は可能でも、“持ち出し” が常態化しているアマチュアスポーツでは難しいことです。

 子供たちを守るのであれば、小中学の段階ではリーグ戦のみとし、球数制限を導入すべきでしょう。ただ、リーグ戦の運営費に目処が立たなければ、トーナメント戦から切り替えることは困難です。

 ジャイアンツカップも “トーナメント戦” なのですから、現実を見据える必要もあるのです。

 

プロ野球選手を目指すなら金属バットは弊害だが、一般の野球愛好家にとって “良く飛ぶ金属バット” は重要

 次に、“飛びすぎる金属バット” の弊害は「プロ野球選手を目指す高校生」が最も大きくなるでしょう。プロ野球は木製バットですから、適応し切れない選手も出ています。

 高校野球を「プロ野球選手の供給源」と見なすなら、木製バットを導入すべきです。ただ、木製バットの使用を義務付けると、選手や学校の負担が激増します。その結果、金銭的な理由で競技を断念する選手も出てくる可能性があります。

 したがって、落としどころは「反発係数の低い金属バットの導入」になるでしょう。

 このようなルール変更はゴルフでも行われています。ゴルフでは「飛びすぎるドライバー」が問題となり、スプリング効果を禁じる『SLE ルール』が導入されました。これにより、反発係数に制約がかかり、飛距離は抑えられました。

 同じことは高校野球でも可能なはずです。しかし、どのカテゴリーから導入するかを決めなければなりません。「ボールを遠くに飛ばせる喜び」は野球人にとって重要であり、草野球を楽しむ人のほとんどが金属バットを使っていることからも明らかでしょう。

 

主催者が参加チームを “選抜” する『春の甲子園』を切り崩しの対象にすべきだ

 状況を変えたいのであれば、“外堀” から埋めることが有効です。ただ、「外堀を埋めよう」と言うだけでは意味がなく、外堀を埋めるための軍資金を用立てることや計画を立案して賛同者を募るなど汗をかく必要があります。

 また、長期的な戦略も必要になることから、「世間の声」だけでは変わる見込みは低いでしょう。なぜなら、現状を維持してくれた方が世間は『感動の物語』を楽しめるからです。

 延長タイブレークが導入されたり、優勝を狙える学校は複数のエース級投手を揃えて大会に臨んでいます。しかし、こうした一連の取り組みは “金農旋風” の前に吹き飛ばされました。これが現実なのです。選手の面倒を見る必要のないマスコミが煽る立場にいる以上、簡単な道のりではありません。

 まずは小学生・中学生レベルの大会を「育成」と割り切り、基本的にはリーグ戦にできるかが鍵でしょう。その上で、ジャイアンツカップのようなトーナメント大会は都道府県選抜などの形で連戦に耐えられる選手層を揃えた上でエントリーする形に変えるべきです。

 これから、球数制限も導入しやすくなるでしょう。そのためには「普段のリーグ戦を運用する資金」と「リーグ戦に適した柔軟なフォーマット」が不可欠なのです。個人で解決できる問題ではないだけに、チームとして本腰を入れる人がどれだけいるかが大きなウエイトを占めていると言えるのではないでしょうか。