政府が「インフラ輸出促進のため『BOT方針』を強める」と発表も、本気度に疑問が残る

 NHK によりますと、日本政府が「成長戦略の柱」として掲げるインフラ輸出を積極的に推進するために、運営やメンテナンスへの関与を強める方針を固めたとのことです。

 これは『BOT (Build Operate Transfer) 方式』と呼ばれるもので、「事業を一括で請け負った後に譲渡する」というものでインフラビジネスでは一般的に用いられている方法です。従来からも見られた手法ですが、本当に「関与を強めるのか」は半信半疑と言わざるを得ないでしょう。

 

 政府は成長戦略の柱として掲げるインフラ輸出を積極的を推進し、2015年におよそ20兆円だった海外での受注額を来年には30兆円に増やす目標を掲げていますが、2016年に増えたのはおよそ1兆円にとどまりました。

 このため政府は、インフラの整備や機材の販売を中心とした従来のいわゆる「売り切り型」では不十分だとして、整備した施設の運営やメンテナンス事業などにも積極的に関与する方針を固めました。

 (中略)

 政府は、民間企業とも協力してインフラ整備の受注と合わせて、電力、鉄道、情報通信、医療の4分野を中心に、サービスの提供などの売り込みを図り、収益力の強化を目指すことにしています。

 

機材やシステムは購入しただけでは収益を生み出さない

 インフラビジネスは巨額の資金が動きます。少なくとも、数百億円の規模であり、大型案件になると数兆円の規模になります。そのため、機材やシステムだけを『売り切る方針』では買い手側が難色を示す傾向が現れるのです。

 インフラに該当する部分のビジネスでは管理・運用し続けることが重要です。

 したがって、『BOT (Build Operate Transfer) 方式』で売り込んだ方が受注できる可能性が高くなります。なぜなら、インフラ事業を長期的に運用すると、何らかのトラブルに遭遇してしまいます。その際に「解決ノウハウを持った人材を確保できているか」は大きな違いです。

 将来的なリスクマネジメントにも配慮されたプロジェクトが競争力を持つのは当然と言えるでしょう。

 

「質の高い日本製を販売でき、長期間で投資分を回収できるビジネスモデル」は重要

 インフラビジネスで『BOT 方式』を採用することは「高価格・高品質」の製品が主力の日本にとっては重要なことです。なぜなら、多くの当事者にメリットがあるからです。

  • 日本:
    • 製造企業:製品を販売できる
    • 運営・メンテ企業:運転および管理事業に長期間携われる
    • 日本政府:上記の企業群が収益を出すことで税収増が見込める
  • インフラ投資先の相手国:
    • 政府保証を出しやすい
    • インフラが整備される
    • 電力や鉄道の運営・メンテナンスのノウハウを学べる
      → 新たな雇用も生まれる

 インフラ輸出と言えば、以前は「ODA (= 政府開発援助)による道路や橋の建設」が代表例となっており、そのイメージが強すぎるでしょう。道路や橋の点検・補修は必要事項ですが、あまり重要視されていなかったため、『売り切り方式』が目立ったことは否定できません。

 ただ、電力や鉄道などはメンテナンスが道路以上に必要となります。そのため、『BOT 方式』に力を入れることは自然な流れと言えるでしょう。

 

運営・メンテナンスを軽視して『イギリスへの原発輸出プロジェクト』を潰した日本政府の姿勢は信用できるのか

 日本政府は「『BOT 方式』によりインフラ輸出に力を入れる」との方針を固めたと報じられていますが、これは半信半疑と言わざるを得ません。なぜなら、日立製作所が関わっている「ウィルヴァ・ニューウィッド原発(イギリス)」のプロジェクトが頓挫したからです。

  • ウィルヴァ原発プロジェクト:総事業費約3兆円
    • 建設:事業費約1兆円
      • 日立製作所が担当(ノウハウ有)
      • ABWP(改良型・沸騰水型軽水炉)を建設
      • 安全対策費込み
    • 運転・メンテ・廃炉:事業費約2兆円
      • 日立はノウハウを持たないため担当できない
      • 東京電力と中部電力にはノウハウ有
        → 再稼働していないため、協力できず

 ウィルヴァ原発の案件は総事業費が3兆円超と高額ですが、75ポンド/MWh に買取価格が設定されることで4300億円の黒字になると諸葛宗男氏がデータに基づく試算を行っています。

 プロジェクトが頓挫した最大の理由は「日立が35年の運転と廃炉に関するノウハウを持たない」ことであり、肝心のノウハウを持つ事業者の協力を “妨害” しているのは『BOT 方式』でのインフラ輸出に力を入れると宣言した日本政府なのです。

 東電や中電は ABWP (柏崎刈羽や浜岡原発)を有していますが、再稼働できる見通しは立っていません。なぜなら、安倍政権が原発再稼働に消極的だからです。これでは民間企業が良い案件を見つけて来ても、プロジェクトが成就することは不可能と言わざるを得ないのです。

 

 官房長官に質問するなら、「『BOT 方式によるインフラ輸出』に力を入れるとのことだが、政府の影響力が強い東電でさえ日立のイギリス原発に手をあげていないのだから本気度が疑われる」と “挑発” すべきでしょう。

 その上で「法的根拠が存在しないにも関わらず、原発が再稼働しない理由は何か」と畳み掛ければ、官房長官が答えに窮することは目に見えているのです。しかし、反原発派のマスコミには無理な要求項目です。

 政府の姿勢を問いただすことはマスコミが常日頃から主張する本分であるなら、有言実行しなければなりません。正面から問いただすことができるのですから、政府の狙いを質問することは国民に有益な情報を提供できると言えるのではないでしょうか。