東京一極集中の弊害が出版業界で発生、中国・九州地方の雑誌や書籍の新刊店頭発売が「アマゾンより1日遅れ」となることに

 共同通信によりますと、雑誌と書籍の店頭販売日が中国・九州地方で「従来よりも1日遅れる」ことになったとのことです。

 原因は「東京からのトラックによる幹線輸送ができないため」と日本出版取次協会が発表しています。ただ、ライバル関係にあるアマゾンは影響を受けていないのですから、印刷・納品体制に問題があると言えるでしょう。

 

 中国地方5県、九州7県で4月1日から、雑誌と書籍の新刊の店頭発売日が従来よりもさらに1日遅れることが9日、分かった。物流会社の人手不足やコスト上昇が要因。自前の物流網を構築したインターネット通販のアマゾンジャパン(東京)は従来通りの日程で配送するとみられ、中国、九州の書店は新刊販売で不利な状況に立たされることになった。

 出版物の卸を担う取次会社からなる日本出版取次協会(東京)が明らかにした。

 雑誌や書籍は「新刊の発売初日」が最も売れる日でしょう。増版がある書籍は2日目以降も売れ続けるでしょうが、それは “ベストセラー作品” に見られる例外的なケースです。

 したがって、ほとんどの場合は雑誌のように「発売初日にどれだけ売り上げられるか」が鍵なのです。その状況で、発売初日がライバルよりも1日遅れは致命傷になり得ると言えるでしょう。

 

「『東京からの幹線輸送』が法令違反状態で現状維持はできない」ことが遅れの原因

 共同通信が報じたニュースの “元ネタ” は日本出版取次協会が発表したプレスリリースです。

画像:日本出版取次協会による発表内容

 「東京から(中国・九州地方にある)現地の配送拠点へのトラック幹線輸送が運行管理・労務管理上の法令違反状態だから、現行の輸送スケジュールは受認できない」と言われたことが原因と説明しています。

 輸送業者は法令違反状態を黙認する動機は何もありません。労基に報告されると処罰されるのは “働かせた輸送業者” であり、“依頼主” ではないからです。

 出版業界からの無理な要望を法令に違反してまでも聞き入れてくれる輸送業者はほとんどないと言わざるを得ないでしょう。

 

西日本にも印刷拠点を用意すれば、『東京からの幹線輸送』が問題にはならない

 出版業界は東京で雑誌や書籍を印刷し、全国各地の配送拠点にトラックで輸送しているのでしょう。この輸送体制に無理が生じているのだと考えられます。

 これまでは「〇日の〇時に必着」という注文が成立していたはずです。しかし、長時間労働是正の一環で「ドライバーに休憩時間の取得」が徹底されると、時間内に間に合わなくなります。また、連続勤務のチェックも厳しくなっているのですから、人手不足が起きている業界なのです。

 そのため、長距離路線である『東京 ー 中国地方便』や「東京 ー 九州便』が影響を受けるのは自然の成り行きと言えるでしょう。

 この問題を解決するのは難しいことではありません。なぜなら、「大阪以西で印刷拠点を作り、そこから発送する」ことで『東京からの幹線輸送』が “ネック” になることを回避できるからです。

 ただ、この解決策には「コスト増」という代償を出版業界が背負うことになるため、厳しい選択を強いられている状況が浮き彫りとなっています。

 

「コスト増を負担して印刷工場を持つ」か「中国・九州地方を捨てる」かの二者択一

 インターネットが一般化しましたので、“雑誌や書籍の印刷に必要なデータ” を大阪以西に設置する新印刷工場に送ることは問題にはなりません。東京の印刷工場と同じ設備を用意すれば良いのですから、ハードルはそれほど高くないでしょう。

 問題となるのは「印刷工場の運営費」です。工場の収益性は稼働率と比例関係にあり、稼働率の低い工場は「お荷物」と言わざるを得ません。

 現状は「東京にある印刷工場の能力」で間に合っているのですから、西日本に新工場を作ると採算が悪化することになるでしょう。このリスクを出版業界が負えば、中国・九州地方でも発売初日に書店にも雑誌や書籍の新刊が並ぶことになります。

 ですが、「その経営方針は採らない」との判断を業界側が下したのですから、中国・九州地方でアマゾンに対する競争力が失われるのは当然です。実店舗を持つ書店経営者には厳しい現実ですが、全体の販売部数が大きくないなら、「切る」という判断も間違いとは言えないでしょう。

 

 経営的にシビアな判断を下すのであれば、採算性が悪い地方や地域の切り捨ては進行するはずです。そもそも “再販制度で過剰に保護されている業界” なのですから、同情票は集まりにくい状況にあります。

 ネットが世間一般で当たり前となったことで、情報の新しい伝達経路ができたのです。それを使う個人が増えるほど既存のビジネスモデルは苦戦を強いられることになるのです。ビジネスの転換期を迎えており、どのような判断を下すのかが経営者の腕の見せ所と言えるのではないでしょうか。