北アイルランドの国境・関税問題が解決されない限り、イギリスの『EU 離脱方針』はまとまらずに時間だけが経過するだろう

 NHK によりますと、イギリス議会で現地12日に『離脱協定案』が否決されたことを受けて開かれた翌13日の議会で「『合意なき離脱』はない」と可決したとのことです。

 ただし、この採決に法的拘束力はないため、EU との合意がなければ『合意なき離脱』になるのは自明です。また、北アイルランドの国境問題と関税問題は「メイ首相のアキレス腱」なのです。

 これらに対する解決の見通しがないのですから、混迷は続くことになるでしょう。

 

 イギリス議会では、メイ首相が取りまとめた「離脱協定案」が否決されたことを受けて13日(日本時間の14日午前5時前)、EUと何の取り決めもないまま離脱する「合意なき離脱」を回避するのか採決を行いました。

 政府は「今月29日の時点でEUとの合意がない場合に、合意なき離脱を見合わせる」と提案に条件をつけていましたが、投票に先立って超党派の議員が、期限を設けず今後一切「合意なき離脱」はないとする修正を加えました。

 そして採決の結果、賛成321、反対278で「合意なき離脱」の回避は支持されました。

 これによって、政府の離脱協定案を通すためにいわば切り札として「合意なき離脱」の可能性を残しておきたかったメイ首相の思惑は阻止された形となりました。

 

イギリスの EU 離脱で浮上する「北アイルランドの問題」

 『イギリスの EU 離脱』では「北アイルランドの処遇」が問題となります。これは位置的な理由で問題が生じてしまうからです。

画像:EU離脱で問題となっている北アイルランド

 北アイルランドは “アイルランド島の北東部” に位置するため、アイルランドとは陸続きです。アイルランドも EU 加盟国であるため、イギリスが EU の一員である限りは人やモノの動きは自由にできます。

 しかし、離脱となると「規格」が異なるため、人やモノの出入りを「管理」する必要が生じ、コストが発生することになります。イギリス政府としては「避けたい事態」なのですが、そうできない事情があることが『EU からの離脱』を困難なものにしているのです。

 

北アイルランドに『香港のような一国二制度』を暫定的に導入したいが、それが暗礁に乗り上げている

 イギリスが EU から離脱すると、イギリス王国の一員である北アイルランドも EU から自動的に離脱することになります。この場合、陸続きでアイルランドとの国境管理も必要になるため、「不要なコストを避けたい」と当局の本音が現れます。

 ただ、厄介となるのは「国境管理」よりも「関税・規制面」でしょう。

  1. 現行:
    • 北アイルランド(= イギリスの一部)は EU の一員のため、製品の税関検査は不要
  2. イギリスの EU 離脱後:
    • イギリス基準が適用:「北アイルランド 〜 アイルランド」で税関検査が必要
    • EU 基準が維持:「北アイルランド 〜 イギリス」で税関検査が必要

 当初、EU は「北アイルランドだけが EU の関税・単一市場に留まる」という “バックストップ(= 防衛策)” を主張しました。

 しかし、「イギリス連邦の一体性を脅かす」とイギリス政府が猛反発。バックストップの当初案は頓挫し、「イギリス全体が EU の関税同盟に残れる」という “新たなバックストップ” で議論が行われることになりました。

 ところが、『バックストップの脱却』には EU とイギリスの “双方” が合意しなければ脱却不可などの条件だったために再び議会が紛糾。2019年3月に入っても、揉め続ける原因となったのです。

 

「ハードブレグジットで政権維持」か「ソフトブレグジットで少数与党転落」かを迫られているメイ首相

 実は『バックストップ』はメイ首相にとっての “アキレス腱” なのです。なぜなら、イギリスの与党・保守党は単独で議会(下院)の過半数を得ておらず、閣外協力で法案を通している状態だからです。

 協力をしているのは「北アイルランドの地域政党・民主統一党」なのですが、民主統一党が「イギリス帰属派」であることがメイ首相の “足かせ” となっているのです。

  • ソフトブレグジット:
    • 『EU との合意内容』に基づき、イギリスが離脱
    • 北アイルランドは2020年12月以降も EU 市場に残る可能性あり
      → 民主統一党は「反対」の立場
    • 民主統一党の協力を得られない与党・保守党はレームダック化
  • ハードブレグジット:
    • イギリスが合意のないまま、EU から離脱
    • 「北アイルランド=イギリス」の図式に変化はないため、民主統一党の閣外協力は継続
    • 保守党メイ政権はレームダック化を回避できる

 「イギリス帰属派」である民主統一党の要求内容は「北アイルランドをイギリスと一心同体として扱うこと」です。『バックストップ』の内容は「北アイルランドとイギリスを隔てる可能性があるもの」になっているのですから、議会が紛糾するのは当然と言えるでしょう。

 現状では「北アイルランドの国境管理・関税・規制面に関する枠組みは白紙」なのです。「2020年までに決める」と言うだけの説明を『合意』として扱うことには無理があります。

 

 保守党に協力する可能性があったのは「民主統一党だけ」の状況でしたので、メイ首相の立場も厳しいことに変わりありません。離脱期限を延長したところで、北アイルランド関連の問題に対する議論の成果が見えていないのですから、状況が変わる要因にはならないでしょう。

 期限を迎えるまで、混乱が継続することになると言えるのではないでしょうか。