大関・貴景勝は “周囲の雑音” に惑わされることなく、『突き押し相撲』を極めることで「更なる高み」を目指すべき

 日本相撲協会が関脇・貴景勝の大関昇進を正式に決定したと NHK が報じています。

 『突き押し』に特化した独特のスタイルで大関にまで上り詰めた実力は高く評価されるべきでしょう。最高位である「横綱」を目指すに上で「『四つ相撲』もできるように幅を広げるべき」との意見も出ていますが、これは無視すべきです。

 なぜなら、貴景勝にとってはマイナス部分の方が大きくなるからです。

 

 日本相撲協会は27日、大阪市の大阪府立体育会館で次の夏場所に向けた番付編成会議と、臨時の理事会を開き貴景勝の大関昇進を正式に決めました。

 貴景勝は平成26年秋場所に前相撲で初土俵を踏んでから28場所での大関昇進です。

 力士として “小柄” な貴景勝ですが、『突き押し』に特化することで番付を駆け上がり、大関にまで昇進しました。

 「関脇の地位で33勝」が大関昇進の目安ですので、安定感も備わった『突き押し』型の新しい力士像を作り上げたと言えるでしょう。その一方で、「『四つ』でも組めるようになるべき」との声もあることは事実です。

 しかし、貴景勝はこうした声に耳を傾けるべきではありません。なぜなら、そうした意見を聞き入れていたなら、「大関取り」に挑むことすらできなかったと考えられるからです。

 

「成績の安定感が期待できる」という点で『四つ』の有効性を主張する角界関係者は多い

 『四つ』を推す角界関係者が多い理由は「大相撲は15日間のリーグ戦形式で行われるため、安定感が重要視されているため」でしょう。

  • 『四つ相撲』
    • コンディションに左右されにくい
    • 劣勢でも組み合えれば、勝機が生まれる
    • 安定度に重きを置くため、リーグ戦向き
  • 『突き押し』
    • コンディション(= 立ち合い)に大きく左右される
    • 劣勢での挽回は難しい
      → ただし、状態次第では相手が横綱でも瞬殺可能
    • 勢いが全てなので、トーナメント戦向き

 横綱・稀勢の里の引退について言及した際にも取り上げましたが、『四つ』には「悪い内容でも白星を拾える可能性」があります。そのため、『四つ相撲』もできるように指導する親方がいるのは当然のことです。

 ただ、何事にも “例外” があるように、『四つ相撲』では大成できない力士も存在するという現実を見なければなりません。貴景勝はその代表例だと言えるでしょう。

 

“小柄な” 貴景勝が『四つ』に組むことのメリットはほぼ皆無

 相手と組み合う『四つ相撲』は確かに安定感した成績を残すことが期待できます。しかし、これは「体格の良い力士」を対象にした場合であり、小柄な小兵力士には該当しません。

  • 『四つ』は互いに組むため、体格の大きい方が有利
    • 体格が大きいほど筋肉量も多くなり、パワー勝負で優勢となる
    • 腕の長さも体格に比例するため、相手を掴める範囲が広くなる

 貴景勝は小柄で腕も長い方ではないため、『四つ』で組むと相手に上手を取られてしまうでしょう。小兵力士が相手に組み止められた状態から勝つことはほぼ不可能なのですから、「四つに組む」という選択肢を最初から捨てた貴景勝の判断は正しいと言えるはずです。

 「組まれた時の返し技」が1つあれば良いかもしれませんが、役力士を相手に “相手の形” で組まれた場合は「敗け」を覚悟すべきでしょう。「互いに離れた状態」で立ち合うのですから、変な色気は出すべきではないのです。

 

『四つ』は膝に “爆弾” を抱えるリスクがあり、膝を痛めながらも横綱昇進を勝ち取った大関は直近には存在しない

 過去に大相撲では公傷制度がありましたが、現在では廃止されています。そのため、番付を上げるためには「怪我のリスクを可能なかぎり低くすること」も重要なことです。

 特に、「膝の怪我」は力士生命を脅かす恐れのあるものであり、細心の注意が必要と言えるでしょう。

 中でも「前十字靭帯」に関する負傷は極力避けるための “工夫” が不可欠です。これは「力士の大型化が進み、膝に対する負担が大きくなっていること」が原因の1つとの共通認識ができています。

 また、『四つ相撲』では「大型化の流れで体重が増えた力士2人分の重さが “一方の力士の片方の膝” にのしかかる」という事態が起きる可能性が高くなる訳ですから、それによって前十字靭帯を負傷する確率は上昇するのは自明です。

 ただし、貴景勝のように『突き押し』に特化して『四つ』を極力回避すれば、「膝の怪我が理由で実力を発揮できない」という状況の大部分は回避できます。取り組みに関する批判は起きるでしょうが、“目先の1勝” と “その後の力士生命” は比べるまでもないことのはずです。

 前十字靭帯を痛め、膝に “爆弾” を抱えた状態で横綱昇進を勝ち取った大関は平成以降には存在しないのです。「健康体」であることが、綱取りを目指す上での大前提と言えるでしょう。

 

 貴景勝の場合は「『突き押し』に威力を出すためのパワー」を維持することは重要ですが、体重が重くなり過ぎると「動きが鈍る」という弊害が生じることになります。絶妙のバランスを見出すことができれば、綱取りに挑むことも現実味を帯びるはずです。

 周囲の “雑音” に惑わされるのではなく、自らの “特異性” を武器に更なる高みに到達する可能性を感じさせる相撲を取ることができるのかが注目点と言えるのではないでしょうか。