コーチ陣やスタッフではなく、選手に “英語力” を要求する日本フェンシング協会

 日本フェンシング協会が「一定の英語力を有しない選手は代表選考の対象から除外する」と発表したと共同通信が伝えています。

 競技の実力によって選考されるのではなく、語学力による “足切り” を行うことは良計とは言えないでしょう。競技人口を保つためには「新たな選手を獲得し続けること」が重要であり、語学力テストの導入は悪しき前例となる恐れがあるからです。

 

 日本フェンシング協会は25日、2021年以降に行われる世界選手権の日本代表選考基準として、英語の試験成績を導入すると発表した。ベネッセが運営する英語検定試験GTEC(ジーテック)で一定の基準をクリアしなければ、選考対象から外される。

 代表活動で外国人コーチからの助言を直接理解することや、国際試合で審判の判定に対して臆せず対応できるようにすることが狙い。

 フェンシング協会の対応が微妙なのは「選手に英語力」を要求している点でしょう。なぜなら、選手には「競技に専念できる環境」を用意すべきですし、コーチ陣やスタッフに英語力を要求した方が効果があると考えられるからです。

 

代表チームのコーチ陣やスタッフが「育成のノウハウ」を有していないと、競技の底上げに結びつかない

 競技として考えた場合、指導者が「育成のノウハウ」を持っていることは重要です。それによって選手を効率的に成長を促すことができるからです。

 しかし、指導層に育成力がないと世界レベルで通用するかどうかは「選手のセンス」に大きく依存することになります。

 競技人口の少ないマイナー競技ですから、現状維持で十分と考えることもできます。ただ、フェンシングは「機材スポーツ」の面が強い競技であり、競技に打ち込むアスリート自体が希少な存在と言えるでしょう。

 それを「競技の実力」ではなく、「語学力」で足切りを行うと宣言したのですから、他の競技に流れるリスクは無視できないと考えられます。

 

“将来の代表選手” が「外国人コーチの助言」を理解できるように代表スタッフが英語力を習得することを優先すべき

 フェンシング協会は「外国人コーチの助言を直接理解すること」を語学テスト導入の目的と説明しています。これは正しいようで的を得ていないと言わざるを得ません。

 なぜなら、競技の指導では「動作の手本を示すこと」が可能ですし、「映像解析」という形でフィードバックもできます。

 つまり、「言葉」だけで助言するケースの方が稀なのです。競技先進国から指導者を招く理由は「選手の状態を的確に分析」し、「適切なフィードバックを行う」ことがメインです。

 試合中にコーチが指示を出せるなら、選手に英語力を求めることは理にかなっています。ですが、それができないのであれば価値はほとんどありません。

 むしろ、“競技経験者で語学力のある人物” を代表チームのスタッフに入れ、“将来の代表選手” にも『代表チームの現役外国人コーチ』によるアドバイスを得させた方が競技の底上げにつながることでしょう。

 したがって、英語力で振るいにかけるのは選手ではなくスタッフや協会関係者であるべきなのです。

 

「審判の判定に英語で文句を言うことで結果が左右する」なら、競技として根本的な問題があるのでは?

 「審判の判定に臆せず対応できるために英語力が必要」という主張は「抗議をすれば判定が覆る可能性がある」と言っていることと同じです。

 これは競技として致命的でしょう。「審判員とのコミュニケーション能力」が重要な要素と認めてしまっているからです。

 つまり、審判のさじ加減で判定が左右される競技と言えるからです。「審判を味方に引き込めるか」が重要となっている時点で競技として問題ありと言わざるを得ないでしょう。

 “チャレンジ” や “ビデオ・アシスタント・レフリー” が導入されている競技は「審判員との関係」はそれほど重要視されません。国際大会での誤審が問題になっているなら、国際統括団体に「審判員のレベル向上と対策」を要求し続けることが協会の役割であるはずです。

 ロビー活動をすることが重要であり、協会傘下の選手たちに英語力を求めることは「付け焼刃」に過ぎません。問題の根本的な解決に取り組む必要があると言えるのではないでしょう。