ソフトバンク、顧客離れでアメリカの子会社・スプリントがさらなる苦境に立たされる

 Tモバイルとの合併計画が当局の審査中であるソフトバンク傘下のスプリントが顧客離れに苦しんでいるとロイター通信が報じています。

 「消費者から見限られている」とのシグナルが出ている状態であるだけにスプリントは厳しい立場にあると言えるでしょう。規制当局から承認が得られたとしても、合併後の新会社がスプリントの溜め込んだ赤字に苦しむ展開になると考えられます。

 

 ソフトバンクGはスプリントをTモバイルUS(TMUS.O)と合併させて非子会社化する計画だが、規制当局の承認が得られず、4月29日の合併手続き完了期限を3カ月延長した。孫正義社長は9日の会見で「事業は苦しいながらも一応、順調に行っている」と語ったが、不透明感は増すばかりだ。

 スプリントの2019年1ー3月期の純損益は、21億7400万ドルの赤字に転落した。前年同期は6900万ドルの黒字だった。20億ドル(2220億円)の減損損失を計上したことに加え、携帯電話契約数が予想以上に減少したことが足を引っ張ったが、市場では値引きをしても顧客を引きとめられない状況に存続を危ぶむ声が広がっている。

 

契約数の減少で約20億ドルの赤字を計上したスプリント社

 スプリントの立ち位置は「Tモバイルとの合併申請の承認結果待ち」です。ただ、スプリント社の経営状況は思わしくないため、時間がかかるほどネガティブな要素が色濃くなっている状況です。

 携帯電話会社で全米3位だったスプリントですが、Tモバイルに抜かされて4位に転落しました。

 これは純粋に「経営力で劣っている」と判断されても止むを得ないものでしょう。サービスの魅力度が下がれば、顧客離れが発生します。

 それによって減収・赤字決算が引き起こされるのですから、企業そのものが窮地に立たされていると言えるでしょう。

 

スプリント側が「合併しないと事業存続は難しい」と主張するほど、顧客離れは深刻になる

 当局からの承認を得るためには「合併しないとプラス効果は得られない」と “泣き落とし” に出ることは有効な戦術と言えるでしょう。しかし、副作用が存在します。

 それは「現状の企業形態では先行きに大きな懸念がある」と訴えていることと同じだからです。

 「先行きに不安がある」と宣言する企業のサービスを選択する消費者は少数でしょう。サービスの提供が滞るリスクがあるなら、同業他社に乗り換える消費者が増えるのは当然です。

 その結果、顧客離れが起きることとなり、収益の悪化を招く要因になるのです。しかも、新会社は「旧会社が溜め込んだ赤字や負債」も背負うのですから、ポジティブに評価できる要素が少ないことに変わりはないと言わざるを得ないでしょう。

 

“スプリントの負債を背負った新生Tモバイル” が AT&T やベライソンと対等に渡り合えるのか

 アメリカの携帯通信会社は4社です。スプリントとTモバイルが合併することで3社になるのですが、『新生Tモバイル』はスプリントの負債を背負うことになるのです。

 「3強」でなく、「2強1弱」になる可能性があります。これは「スプリントの多額負債」を返還するために資本を費やす必要があり、経営の自由度が低下する懸念があるからです。また、ファーウェイ社との関連性が否定され切っておらず、この点もネガティブに作用するでしょう。

 その結果、『新生Tモバイル』が “1弱” となる可能性は十分になるのです。

 実質的に「2社」となるなら、合併を認めずに「3強1弱」とした方が寡占の度合いは軽減できます。スプリントは草刈り場となりますが、Tモバイルが受け皿として機能するほど「3強の差」は拮抗することになると考えられるからです。

 ソフトバンクのトップが「スプリントの企業価値を引き上げる」よりも「投資」に注力しているのですから、経営状態が上向くことを期待することは困難でしょう。企業価値を高めることができる経営者が不在によるツケをソフトバンクが払うことになる恐れが高いと言えるのではないでしょうか。