社会保障に多くの財源を費やした上、科研費を文系分野にも多く割り当てれば「日本の論文引用回数が低下する」のは当然だ

 科学技術振興機構が引用回数の多い科学論文の国別割合を発表したと NHK が報じています。

 アメリカと中国のどちらかが各151分野で1位となり、日本は「がん研究」などの2分野が3位に入ったことが最高でした。すべての分野で上位に顔を出すことは非現実的ですが、「トップ5に入っているのは18分野」という現実は深刻と言わざるを得ないでしょう。

 

 引用回数が多い科学論文の各国の割合を151の分野ごとに比較したところ、アメリカと中国が各分野の1位を独占し、日本は1位となる分野がありませんでした。集計した科学技術振興機構は、日本の研究力が相対的に下がっていると警鐘を鳴らしています。

 (中略)

 5位以内の日本の順位をみても、1997年までの3年間平均では151分野のうち83分野で日本はトップ5に入っていましたが、最新の2017年までの3年間では18分野にまで減りました。

 NHK が報じたニュースの元ネタは科学技術振興機構が PDF で公開していますので、内容を確認する意味は大きいと言えるでしょう。

 

日・米・中・英・独の5カ国による科学論文の国際シェア

 科学技術振興機構では日米中の3カ国だけではなく、イギリスとドイツも加えた5カ国バージョンも公表しています。それでは論文引用回数のランキングを見ていくことにしましょう。

画像:論文引用回数のランキング2

 「生命科学」においては「がん研究」が最高の3位に付けています。その一方で「食品科学」が19位とかなり低くなっています。

画像:論文引用回数のランキング2

 「工学・化学・材料」においては「コロイド・表面化学」が3位。逆に最も低かったのは「化学的健康・安全」で20位でした。

画像:論文引用回数のランキング3

 「コンピュータ科学・数学」での最上位は「コンピューターネットワークとコミュニケーション」の7位でした。この分野では「論理学」が20位を下回っていることが特筆点と言えるでしょう。

画像:論文引用回数のランキング4

 「物理・エネルギー・環境」では「物理・天文学」と「核・高エネルギー物理学」の5位が最上位です。一方で「地球科学におけるコンピューター」と「自然・景観保全」が20位を下回っていることが読み取れます。

 

「科学技術の研究費」よりも「社会保障」や「文系科目の研究費」に比重が置かれた結果

 日本の科学技術が低下しているのは以前から予想され、警鐘は鳴らされていました。日本人でノーベル賞を受賞した科学者が異口同音に「研究環境の改善」を始めとする要望を述べているのですから、当然の結果だと言えるでしょう。

 なぜなら、ノーベル賞は「10年から20年以上も前の業績」に対して送られることが一般的だからです。

 「発表された研究結果に間違いがないこと」が念入りに確認されてから賞が送られるのです。つまり、“昔取った杵柄” が『ノーベル賞』という形で価値が上乗せされたことと変わりません。

 ところが、「ノーベル賞の受賞が続いている」ことで “現在の研究環境” が悪化している現状には世間の興味が薄れる悪循環が始まってしまいました。「科研費」と名前が付いてはいるものの、山口二郎氏のような政治学者が6億円の研究費を得たり、政治活動と混同した研究内容でも研究費が得られているのです。

 また、弱者支援を要求する声が大きくなったことで社会保障が増えたことで科学技術研究そのものに予算が付かなくなってしまいました。国民が選択したこととは言え、現状を黙認・放置することによる弊害は無視できなくなるでしょう。

 

福島や豊洲に対する風評は「論文引用回数が少ない分野」で起きている点が興味深い

 科学技術の水準が重要なのは「風評の蔓延を防ぐ」という効果が大きいからです。例えば、福島や豊洲に対する風評です。

 「食品科学」に対する知識が一般にも広く普及していれば、福島県産の農作物が放射能に汚染されているなどというデマをマスコミが取り上げることもないでしょう。また、豊洲市場への風評についても同様です。

 豊洲では「地中のベンゼン」に焦点が当たりましたが、これは「化学的健康・安全」の分野に含まれていると考えられるからです。こうした論理的な部分が極端に弱いのですから、論理的な判断にも難点があると言わざるを得ないでしょう。

 また、「自然・景観保全」についても、太陽光発電のために自然破壊が行われている現状があります。すべての研究分野で論文引用回数のトップ争いをする必要はありませんが、20位前後の分野で社会的に大きな損失が出ている現状は重く受け止める必要があると言えるでしょう。

 

 「厳しい研究環境でも実績を残すことに成功した研究者」という “感動物語” をマスコミが流したところで、効果があるのは一般大衆だけです。肝心の優秀な研修者が海外流出してしまうと元も子もないのです。

 社会保障や文系科目への予算重点配分の現状を是正しない限り、日本の強みは何もなくなってしまうという現実を直視する必要があると言えるのではないでしょうか。