大関・貴景勝、御嶽海に寄り切り勝利した代償で右ひざを負傷 『四つ』の弊害が早くも現れることとなる

 大関として迎える初めての場所で貴景勝が右ひざを痛め、途中休場することになったと NHK が報じています。

 注目の力士を失った損失は大きいのですが、この怪我は現実に起きることが想定されたものです。貴景勝に対して「四つ相撲も覚えるべき」と注文を付けていた好角家は「白星と引き換えに重傷を負うことになった貴景勝の取口についての見解」を出すべきと言えるでしょう。

 

 貴景勝は、16日、都内の病院で診察を受けた結果、右ひざの内側のじん帯損傷で3週間の治療が必要と診断され、夏場所5日目の16日から休場することになりました。

 貴景勝の休場は、去年の春場所以来、2回目です。

 師匠の千賀ノ浦親方は、「貴景勝は、きょうから休場します。本人が言うくらいだから痛みは相当あると思います。出場は無理ですね。このまま相撲人生を終わらせるわけにはいかないので、休場するしかないです。本人がいちばん残念に思っています。次の場所に向けて時間をかけて治していきたいと思います」と話しました。

 

貴景勝の負傷は “前例” があった

 以前にも言及したように貴景勝は『突き押し』に徹するべきでした。なぜなら、『四つ相撲』は自らの体勢が万全でも負傷のリスクがあるからです。

 その前例は栃ノ心です。2013年7月場所5日目の徳勝龍戦で右ひざ前十字靭帯と内側即副じん帯を断裂する大怪我を負っています。負傷の原因は「土俵際で栃ノ心が徳勝龍を釣り上げたこと」です。栃ノ心は白星を手に入れましたが、その代償は極めて大きいものとなりました。

 ひざの負傷が多いサッカーでは「ひざが変な方向に曲がった」ことが原因の大部分です。しかし、栃ノ心や貴景勝の負傷はこれに該当しません。

 “目の前の1勝” に拘った結果、“今後の土俵人生” に大きな影響を及ぼす怪我を負った代償は計り知れないと言えるでしょう。

 

「相撲人生を終わらせる訳にはいかないから、休場するしかない」と公言した千賀ノ浦親方の方針は高く評価されるべき

 ただ、長期的な視野を持った理解者が貴景勝の周囲にいるのはプラスと言えるはずです。中でも師匠の千賀ノ浦親方が「休場」を強く推していることは高く評価されるべき点です。

 これは照ノ富士のケースが「反面教師」になっています。大関・照ノ富士は横綱に近い力士でしたが、2015年9月場所・稀勢の里戦で右ひざを負傷。「前十字靭帯と半月板の損傷で1ヶ月の加療を要する」との診断が出ていました。

 ただ、ひざの怪我が完治しない中で強行出場を続けた結果、本来の実力を発揮することすら困難な状況となっています。

 照ノ富士は「怪我は土俵の上で治すもの」という旧態依然の考え方による被害者だと言えるでしょう。“負傷で本来の実力を発揮できない力士” が強行出場したところで、土俵を充実させることはできません。

 力士人生を急速に縮めることになりますし、これはファンや角界にとっても損失です。「加齢などで実力が落ちる」ことと「怪我が原因で実力が落ちる」ことには雲泥の差があることを相撲協会は自覚する必要があると言えるでしょう。

 

なぜ、日本相撲協会は「公傷制度の復活」を真剣に考えないのか

 相撲協会は「土俵の充実」を目標に掲げていますが、目標を実現するための施策が十分に行われているとは言い難い状況です。その1つは『公傷制度』の復活に消極的なことです。

 星のやりとり(= 八百長)が蔓延していた時代には『公傷制度』があったにも関わらず、八百長への批判が強まった現代では『公傷制度』がないのは明らかに矛盾しています。むしろ、以下の条件で『公傷制度』を復活させるべきでしょう。

  • 対象:本場所開催中の負傷
  • 救済期間:診断書に記載された加療を要する期間
    → 回復の遅れによる追加救済は認めない
  • 救済策:公傷と認定された期間中の番付は維持
  • 再出場をした場合、公傷の認定は失効する

 公傷が認定される条件を明確に定義することで、過去に問題となった悪用を制限することは可能と考えられます。

 もし、細かい負傷による診断書を提出し続けて公傷制度を頻繁に利用する関取がいるなら、協会側が「引退勧告」を出せば済むことです。「土俵を充実させることに貢献できていない」は引退勧告を出す十分な理由と言えるでしょう。

 また、「公傷の認定を受けた力士は相撲協会からセカンドオピニオンの要請があった場合はその指示に従う必要がある」と明記しておくことで、制度を悪用する関取を排除することも可能になるからです。

 

 「怪我をしにくい身体づくり」は幻想です。実現可能なら、他のスポーツで既に取り入れられていることでしょう。現実には「怪我のリスクを少なくする取口」しか角界には存在しないのです。

 負傷のリスクが高くなる『四つ』を貴景勝に要求した好角家は自身の見解を述べる責務があると言えるのではないでしょうか。