NHK のクローズアップ現代、『多目的ダム』と『利水ダム』を混同して「水害はダムが原因」との風評を流す

 7月10日に NHK が放送した『クローズアップ現代+』では豪雨被害をテーマとして取り上げていました。その中で「本来の治水能力を発揮できないダムが豪雨被害を拡大させている」とのデマを流しています。

 ダムには『多目的ダム』や『利水ダム』があります。一様に『治水』を要求することは明らかな偏向報道であり、ダムを一方的に悪者にしただけの問題ある内容と言わざるを得ないでしょう。

 

野村ダムの事例: 行政とマスコミが「伝達責任の落ち度」を責任転嫁

 『クローズアップ現代+』が最初に取り上げた事例は愛媛県西予市の野村ダムですが、この事例を扱うには「ダムの流入・放出量および貯水率の推移」を知っておくことが重要です。

 なぜなら、このデータを知らないと「ダム管理者が適切な行動を取っていたか」という観点が完全に抜け落ちることになるからです。

画像:野村ダムの流入・放出量と貯水率

 野村ダムとしては自治体に、午前2時30分には緊急放流を避けられないというふうに伝達をしていたんですけども、自治体としては雨の中、大雨です。そして、暗闇の中、住民の皆さんに避難していただくのはちょっとちゅうちょがあって、実際に伝えたのは午前5時を過ぎてからだった

 高山哲哉アナウンサーが「午前2時30分には緊急放流を避けられない」とダム管理者から自治体への伝達はあったと番組内で発言しています。

 つまり、“野村ダムへの流入量が増加し、70% 台前半だった貯水率が上昇に転じた時点” で自治体に「緊急放流は避けられない」と伝達していたのです。

 住民への情報伝達を怠ったのは自治体とマスコミです。自分たちが負っている『本来の役割』を遂行しなかった落ち度をダム管理者に転嫁しようとする姿勢は論外と言わざるを得ないでしょう。

 

新成羽川ダムの事例: 「利水ダムを治水用途で使え」と要求

 次に、岡山県の高梁川にある『新成羽川ダム』です。このダムは「水資源を利用する利水ダム」なのですが、「治水(= 水害被害の軽減)目的で利用されていないのはおかしい」との難癖が付けられているのです。

 『利水ダム』は「今後利用する水資源を一時的に貯めておくための施設」です。例えるなら、「子供の学費が入った預貯金口座」です。

利水ダム 学資口座
貯蓄物 お金
貯蓄理由 将来利用するため
利用目的
  • 水力発電
  • 工業用水など
  • 入学金・学費
  • 教科書代など

 「なぜ、子供の学費を使わないのか?学費の支払いをするのは今じゃないだろ?」と言うような大人は周囲から白い目で見られることでしょう。これは「学費として貯蓄していた資金を再び準備するのは簡単ではない」ことが理由です。

 しかし、同じロジックを『利水ダム』に対して向ける大人は NHK から好意的に取り上げられているのです。水資源は無料ではありません。

 利水ダムは「水資源という資産を活用する目的」で設置されているのですから、「水害被害を抑止・軽減する治水目的」での利用は念頭に置かれていません。したがって、要求内容そのものが的外れなのです。

 

公共事業を「不要」とし、インフラ投資を否定してきたのはマスコミである

 また、ダムや河川を整備する公共事業を「不要」として批判の論陣を張ってきたのは他ならぬマスコミ自身です。インフラ事業へのバッシングを煽っておきながら、「なぜ十分な対策が施されなかったのか」はマッチポンチと言わざるを得ません。

 ダムは「治水」や「利水」が主目的ですが、「砂防」という土砂の流入を防ぐことを目的とする施設も存在します。

 目的用途が多数存在しますし、すべてを兼ね備えた『万能ダム』は存在しません。『多目的ダム』が最も万能性を有していますが、『砂防ダム』としての機能はないのです。

 結局は「河口から河川上流部までをトータルで治水管理すること」が最重要課題になります。

 ダムがあれば、「河川の堤防」や「河川流水量の確保」を軽視して良い理由にはなりません。公共インフラを軽視した報道をマスコミが続けたことで被害を拡大させたことによる批判の矛先を向けさせないための番組構成と言えるのではないでしょうか。