「最低賃金を政治主導で実態を無視したペースで引き上げると、雇用者減で失業率が悪化する」という実例が示される

 日経新聞によりますと、『所得主導成長政策』を掲げて最低賃金の引き上げを続けているムン・ジェイン政権が引き上げのペースを緩めざるを得なくなっているとのことです。

 その原因は「雇用の減少による失業率の悪化」です。市場の実態を無視し、政治主導で賃上げのペースを決めることの弊害が如実に現れていると言えるでしょう。特に、日本の野党は韓国ムン・ジェイン政権を反面教師とすべきです。

 

 韓国は12日、2020年の最低賃金を前年比2.9%増の8590ウォン(約790円、時給ベース)とすることを決めた。1988年の制度開始以来3番目に低い伸び率となる。文在寅(ムン・ジェイン)政権は「所得主導」の成長を掲げ、18年(16.4%)、19年(10.9%)と2桁上昇が続いたが、賃上げが雇用減を招いているため一転して抑制に転じる。

 (中略)

 韓国の失業率は10.9%の賃上げが実行された1月に4.5%に上昇した。直近の6月は4%とやや改善したが、17年5月の就任時(3.6%)との比較では悪化した。

 経営体力の弱い自営業者は、人件費負担増に耐えかねて雇用者を減らしている。さらに韓国経済は、半導体市場の低迷などで19年の経済成長率が2.5%と、6年ぶりの低水準となった18年(2.7%)を下回る見込み。

 

キレイゴトに付き合う経営体力を持たない企業は人員削減に踏み切る強い動機を持っている

 最低賃金を引き上げられると、それに対応するだけの経営体力を持たない企業は人員を減らさざるを得なくなります。これは「企業の収益性が著しく悪化することを緩和すること」が目的です。

 企業活動ができなくなっては元も子もありません。何人かの従業員を切ることで企業活動が存続できるのであれば、解雇に踏み切る企業は多くなるでしょう。

 その結果、企業に雇用されている立場の雇用者が減少するのです。

 これは「失業率の増加」という形で統計に現れます。雇用する立場にある企業の実態を無視した “政治主導の最低賃金引き上げ” には弊害があると言えるでしょう。

 

最低賃金を引き上げれば、左派政党を支持する労組組合員の賃金も上がる

 なぜ、左派政党が「最低賃金の引き上げ」に熱心かと言いますと、主な支持団体である労働組合に加入する組合員の賃金も引き上げられることになるからです。

 最低賃金は『誰でもできる最も簡単な仕事』に設定されることが基本です。「最も簡単な仕事」の賃金水準を引き上げると、「最も簡単な仕事に次ぐ難易度の仕事」の賃金水準も引き上げる必要性が生じます。

 そうしないと、『 “最も簡単な仕事に次ぐ難易度の仕事” よりも高収入を得られる最も簡単な仕事』に人材が流出してしまうからです。

 要するに、最低賃金だけを引き上げることはできないため、“企業の正社員” が主体である労組組合員の賃金水準も引き上げられることになることが現実的です。これが左派政党の狙いなのです。

 

失職や解雇のリスクが少ない正社員や公務員が主力の労働組合が自らの利益のために「最低賃金の引き上げ」を求めている

 最低賃金を引き上げると、最低賃金に近い金額で雇用している企業ほど経営環境が厳しくなります。しかし、規模の大きい企業の正社員や公務員の雇用が影響を被ることはほとんどありません。

 なぜなら、彼らは失職や解雇のリスクが極めて少ない職種だからです。

 「人員削減が行われる」とのニュースがあっても、内容は「新卒などの採用を抑えて人員の総数を削減する」というものが中心です。現状で雇用されている正社員や公務員は解雇の対象にはならない安全圏にいるため、「最低賃金の引き上げ」を要求する組合活動に賛同する人が多いと言えるでしょう。

 ただ、雇用の大部分を占めるのは中小企業であり、こちらは「最低賃金の引き上げ」による影響を受けやすい状況にあります。韓国では「失業率が1ポイントほど上昇した」との結果が出ており、これを認識する必要があります。

 「市場の状況を無視して政治主導で行われる最低賃金の引き上げ」は『反面教師』にしなければならないと言えるのではないでしょうか。