「『乳化剤不使用』を主張する乳化剤使用時と同成分の製パン」が発覚したことで、業界団体が不適切表示を止める自主基準を設ける

 「乳化剤は使用しておりません」など添加物不使用を主張する表示方法が「実態と異なる」との指摘が業界内外から起きたことで、業界団体が不適切な表示を止める自主基準を設けたと朝日新聞が報じています。

 発端は2019年3月に山崎製パンが『「イーストフード、乳化剤不使用」等の強調表示について』とのタイトルで成分分析結果を発表したことです。実質的に名指し批判されることになったライバル他社が沈黙を貫いていることから、指摘は事実だったと言えるでしょう。

 

 全国の製パン会社などが加盟する日本パン公正取引協議会は18日、食品添加物の乳化剤やイーストフードについて、「不使用」「無添加」とする表示をやめる自主基準を設けた。

 実際には加工工程で、酵素などを用いて同様の成分を製品中に生成させているにもかかわらず、不使用や無添加を強調する表示があり、消費者に誤認を与えると指摘されていた。加盟社は現在使用している包装がなくなり次第、順次「不使用」「無添加」表示を自粛する見通し。

 

「乳化剤は使っていないが、乳化剤使用時と同じ成分の製パン」で『乳化剤不使用』と宣伝して良いのかという話

 発端となったのは山崎製パン(業界1位)が発表した以下の見解でしょう。

 「イーストフード、乳化剤不使用」等の強調表示のある食パンや菓子パンは、イーストフードや乳化剤と同質、あるいは同一の機能を有する代替物質を使用して製造された食パンや菓子パンであり、添加物表示義務は回避できますが、実際はイーストフードや乳化剤を使用して製造された食パンや菓子パンと何ら差のあるものではありません。

 このように表明し、イーストフード乳化剤の表示義務を回避する具体的な手法に言及。また、市場で販売されている製パンの成分分析を行った結果にも触れました。

 もし、山崎製パンの主張が事実と異なるなら、実質的に名指し批判されたライバル他社に対する営業妨害です。

 しかし、業界2位の敷島製パン(パスコ)は「日本パン工業会で検討されている課題」と逃げを打ち、業界3位のフジパンは「不使用の表示は今後止める」と指摘内容を認める形になっています。

 世間の風評に便乗し、不適切な表記による収益を上げることを目論んでいたのです。自主基準が設けられ、問題表記が是正に向かうことは歓迎すべき点と言えるでしょう。

 

「アルコール類」に置き換えて考えるべきだ

 「乳化剤(やイーストフード)を使用していないのだから、不使用と表記することに何の問題もない」と考える人もいることでしょう。

 確かに、この考えは「正しい」と判断されてしかるべきです。ただ、今回のケースは「乳化剤の使用はないが、乳化剤使用時と同じ効果が製品に現れていること」が問題視されているのです。

 このケースまで「不使用」と表記できてしまうのは問題と言えるでしょう。

 なぜなら、「アルコールの使用はないが、アルコール使用時と同じ効果が製品に現れている商品」を販売時に「アルコール不使用」と宣伝していることと同じだからです。これは “紛らわしい表記” に該当しますし、表示方法の是正に業界団体が乗り出す必要がある案件です。

 これと同様のケースが製パン業界で起きていたのですから、科学的な分析結果を根拠に業界団体へ表記の是正を要求した山崎製パンの方針は適切と考えられます。

 

 山崎製パンに対するバッシングを続けてきた一部の人々からすれば、業界団体が決定した「表記方法の見直し」は受け入れ難いものでしょう。「乳化剤やイーストフードが身体に悪い」と主張していた根拠が失われるからです。

 “家庭の衛生水準” を過剰評価している人たちが「家庭の手作りパンは数日ほどでカビが発生するのに、そうした現象が起きない山崎製パンはおかしい」と言いがかりを付けているに過ぎません。

 食品工場に求められる衛生管理水準は一般家庭の水準を大幅に上回っており、『無菌室』に近い状態なのです。カビの付着がゼロで出荷するのですから、何らかの理由でカビの付着が発生するまで増殖が起きないだけです。

 誤解を招く表記方法が是正に向かうことは歓迎すべきことと言えるのではないでしょうか。