プロ野球の現役ドラフト、“今の藤浪晋太郎(阪神)” を指名できる制度でなければ意味がない

 日刊スポーツによりますと、出場機会の少ないプロ野球選手を対象とした『現役ドラフト』の実施について、選手会から提出された修正案を12球団が再検討しているとのことです。

 現状では FA やトレードによる移籍方法がありますが、チーム事情などで出場機会に恵まれない選手がいることは事実です。そのため、『現役ドラフト』という形で選手を “救済” する道筋があるべきと言えるでしょう。

 

 出場機会の少ない選手を対象とした「現役ドラフト」について、修正案を12球団が持ち帰り、再検討することになった。2年に1度、7月に実施するプランとみられる。井原事務局長は「現役ドラフトを仮に実施するにしても来年からになるので、しっかりと不備がないように案を固めたい」と話した。

 

「球団提出のリストから指名する」との方針では意味がない

 『現役ドラフト』が上手く機能するかは「制度設計次第」と言えるでしょう。なぜなら、指名候補に目ぼしい選手がいなければ、『現役ドラフト』を利用する球団は現れないと考えられるからです。

 『現役ドラフト』の対象となる選手が「所属球団が提出したリストに入っている選手」になると、制度は骨抜きにされたも同然です。

 これは「他球団から狙われる選手を意図的にリストから外す」ことが可能になるからです。所属球団が「選手放出の拒否権」を持つなら、トレードと同じです。

 したがって、『球団の拒否権がない制度』を構築しないと意味がないと言えるでしょう。

 

『現役ドラフト』の具体例

 仮に『現役ドラフト』を導入するなら、次のような条件で運用を行うべきです。

  • 対象:「プロ4年目以降」の選手、育成選手は対象外
  • 条件1: 前年度の1軍登録日数が少ない選手、ただし負傷離脱は除く
  • 条件2: 指名された選手が拒否した場合や期日内に交渉が妥結しない場合は不成立
  • 条件3: 獲得球団は前所属球団に保証金(定額)を支払う
  • 条件4: 獲得選手の登録日数が規定値を満たない場合は違約金を該当選手に支払う

 まず、『ドラフト(= 新人選手選択会議)』で指名された選手が翌年から1軍に定着するケースは例外中の例外です。したがって、プロ 1〜2 年目の選手が『現役ドラフト』の対象になることは避けなければなりません

 ですから、「4年目以降」など「プロで一定の経験を有する選手」を『現役ドラフト』の対象とすべきです。

 次に、『現役ドラフト』で指名されても、選手が拒否権を持っておくことは重要です。「希望ポジションでプレーできているが1軍での出場機会が少ない現所属球団」と「希望外のポジションへのコンバート前提での他球団への移籍」を天秤にかける状況が起きる場合が想定できるからです。

 また、年俸のダウンが提示をされるなど、選手から見て状況が必ず好転するとは限りません。そのため、「選手のため」を思うなら、そのような制度になっているべきでしょう。

 

“トレードするとファンから反発が起きる選手” でも、『現役ドラフト』なら「放出の言い訳」となる

 また、『現役ドラフト』では “飼い殺し状態” にある選手の「救出」という意味合いを持っている必要があります。その代表例は阪神タイガースの藤浪晋太郎投手でしょう。

 藤浪投手の持つポテンシャルは間違いなくプロ野球界屈指のレベルです。しかし、阪神では伸び悩んでおり、環境を変えて再スタートする意義は大いにあると言えるでしょう。

 ただ、阪神はトレードには踏み切れません。これは地元・大阪出身の藤浪選手をトレードに出せば、ファンから袋叩きにされるのは目に見えているからです。また、「藤浪を大成させることができなかった無能な歴代監督・コーチ陣」との批判も小さくはないはずです。

 そうなると、「藤浪が自分の力で化けるまで放置する」が首脳陣にとって最も合理的な判断となってしまうのです。これは避ける必要のあるケースと言えるでしょう。

 ですが、藤浪投手を他球団が『現役ドラフト』で指名できるなら、球団側(= 阪神)は堂々と放出の言い訳ができます。「選手を高く評価していたが、より高く評価する球団が存在し、選手もプロとしてオファーに応じたから」と球団は弁明が可能です。

 藤浪投手の同様のケースは他にもあるはずですから、『現役ドラフト』で指名が可能な制度になっているべきでしょう。まずは選手会と球団・機構側がどのような制度で合意に達することになるかが注目点と言えるのではないでしょうか。