北朝鮮情勢の現状を無視する核兵器禁止条約推進派が「課題は山積み」と嘆く

 NHK によりますと、ボリビアが核兵器禁止条約の25ヶ国目の批准国になったとのことです。ただ、条約の発効には「50ヶ国の批准」が必要です。

 核保有国から見向きもされていない上、北朝鮮は国連安保理による経済制裁を受ける状況下でも核保有に向けて突き進んでいます。“条約を守らない国” に対する有効な手立てがない中で、批准に応じる国が多数派になることはないでしょう。

 

 核兵器の開発や保有、使用などを禁止する核兵器禁止条約を6日、新たにボリビアが批准し、批准国は25か国となりました。条約の発効には50か国の批准が必要で、早期の発効に向けて今後、署名した各国で批准が進むかが課題となっています。

 (中略)

 一方、日本は「現実的な核軍縮につながらない」などとして、署名も批准もしていないほか、核保有国も参加しておらず、核軍縮の進め方をめぐり、対立が続いています。

 

安全保障を守る立場にある “地域の大国” は「核兵器禁止条約に参加していない」という現実

 核兵器禁止条約に批准する国が伸び悩んでいる理由は「核による抑止力が使えなくなる」という安全保障上の問題があるからです。

 要するに、“決まりを守らない国” が出てきた際に「自国の安全が保障されなくなる恐れがある」のです。これは自国の安全保障を維持しなければならない立場にある政治家からすれば、決して軽視することができない点です。

 ただし、例外があります。それは「隣国が自国の安全保障を担保してくれる場合」です。

 ヨーロッパで核兵器禁止条約を批准しているのはオーストリア、バチカン、サンマリノの3ヶ国です。オーストリアはドイツの隣国であり、バチカンとサンマリノはイタリア国内にあります。

 これらの国は核兵器禁止条約に批准しても安全保障上の問題はありません。なぜなら、これらの国を核兵器で恫喝すると隣国を恫喝したことと変わらないため、陸続きで位置するドイツやイタリアも否が応でも対処を強いられるからです。

 だから、“地域の大国” を自国の安全保障に巻き込むことができる小国が批准する傾向があるのです。

 

「禁止したところで、誰が強制力を持って違反を取り締まるのか」との問題がある

 核兵器禁止条約を発効させたところで、「違反が疑われる国が出た場合に誰がどういった権限で取り締まるのか」という問題が付いて回ります。

 「開発・製造・保有を禁じる」と条文に記しただけでは意味はありません。なぜなら、取り締まりが行われなければ、条文は “死文” となるからです。

 例えば、薬物問題で「麻薬の開発・製造・保有を禁じる」と法律に記されているだけでは不十分です。理由は「取り締まりの根拠となる法律と権限が当局に与えられていないから」です。

 したがって、核兵器を禁止したいなら、条約違反を取り締まる権限を持った機構が必要不可欠と言えるでしょう。

 しかし、それは実現不可能です。条約は国家間で締結するものであり、条約違反を理由に介入できるなら、それは「内政干渉」に該当するからです。

 だから、核兵器の開発・製造を続ける北朝鮮に国連ができるのは「経済制裁」が “関の山” なのです。この現実を無視して条約への加盟を呼びかけるのは左翼の自己満足以外の何者でもないと言わざるを得ないでしょう。

 

批准をしたところで、核兵器は魔法のように消えたりはしない

 「核兵器が魔法のように消えたりはしない」という現実と核兵器禁止条約・推進派は向き合う必要があります。その上で、現実的かつ具体的な核兵器削減プロセスを提案できなければ、目的を達成することはできません。

 目標を掲げることは素晴らしいことですが、「目標を掲げて、賛同を集めたこと」は最初の1歩に過ぎません。「賛同が集まったのだから、具体策を考えるのは政治の仕事」では “丸投げ” していることと同じです。

 “タダ乗り戦略” は責任を取る必要がないことが発案者サイドにとっては大きな魅力ですが、負担を押し付けられる側である社会全体から見れば、迷惑極まりないものです。なぜなら、「具体策の立案」に始まり、「実行力」と「結果責任」が否応なしに問われるからです。

 ICAN などの目的は「批准をさせること」であり、批准させた時点で目標は達成です。具体的な廃絶方法を提案する責務がないのですから、どのような結果になっても責任は負いません。

 だから、核兵器廃絶の当事者である各国政府との間に “埋められない大きな溝” が存在しているのです。

 

 世間一般の人々が覚えておくべきなのは「核兵器禁止条約の批准がゴールではない。批准後の具体的なプロセスこそ重要である」ということです。その点に触れないのであれば、対応に労力を割く必要もないと言えるのではないでしょうか。