コスト増で四半期決算が赤字に転落した大韓航空、「日韓関係の悪化」を “渡りに船” とばかりに日本路線の減便に踏み切る

 韓国の大韓航空が「日韓関係悪化に伴う需要減少を受け、日本との路線を減少する」と発表したと朝鮮日報が伝えています。

 このニュースの肝となるのは8月17日に朝鮮日報が報じた大韓航空の経営状況でしょう。なぜなら、大韓航空は前年同期は黒字だった四半期決算が「70億円強の赤字」に今季は転落しているからです。

 つまり、大韓航空には減便したい強い理由があり、『日韓関係の悪化』は単なる口実に過ぎないのです。

 

 大韓航空は今年4ー6月期の営業損失が1015億ウォン(約89億2600万円)を記録、前年同期(824億ウォン=約72億4600万円の黒字)から赤字に転落した。

 (中略)

 実績不振の原因として大きく作用したのはコスト増加だ。大韓航空は最低賃金引き上げで外注コールセンター職員の用役費が前年同期比で91億ウォン(約8億円)増加した。大韓航空職員の人件費は393億ウォン(約34億5600万円)増えた。空港利用料も945億ウォン(約83億1000万円)も増えた。大韓航空関係者は「海外の空港の場合、ドルで決済するため、ウォン安になるとコストが大幅に増加する。ウォン安による空港利用料増加分は252億ウォン(約22億1600万円)に達する」と言った。

 

ムン・ジェイン政権の経済政策で苦境に置かれている韓国の航空会社

 前年同期に「約90億円の黒字」を出していた大韓航空が「70億円強の赤字」にまで転落した理由はムン・ジェイン政権の経済政策です。

 ムン・ジェイン政権は最低賃金を大幅に引き上げましたが、それにより人件費が高騰。外部に委託しているコールセンターの従業員や空港職員の人件費が上昇し、40億円超のコストが増加する結果となりました。

 そして、そこにウォン安が直撃したのです。

画像:米ドル・韓国ウォンのチャート

 2019年の3月までは「1ドル = 1120ウォン」前後を推移していたのですが、4月に入って日韓関係の緊張が高まるとウォンが対ドルで下落。「1ドル = 1190ウォン」の水準にまで下がりました。

 そうなると、国外の空港を利用する際の負担額が増加することになります。

 仮に、空港利用料が1回1万ドルだと、昨年は1120万ウォンだったのが今年は1190万ウォンです。発着毎に70万ウォンが追加コストとして加算されるのですから、国際線の本数を見直すのは当然と言えるでしょう。

 

ウォン安の状況で『ドル決済』が不可避な路線を回避するのは当然の経営判断

 4-6月期が赤字だった大韓航空ですが、7-9月期はさらに厳しい数字が出る可能性があります。なぜなら、「1ドル = 1200ウォン」と通貨安が進行しているからです。

 つまり、韓国国外の空港を利用した回数が同じでも、通貨安の関係でコストは高くなることは明らかです。したがって、大韓航空の中で搭乗率の低い路線を減便することは避けられない状況にあるのです。

  • コスト増による赤字で大韓航空は対策が不可避
  • コスト削減の常套手段は減便
    • 使用機材を限定すれば、パイロットや整備士を解雇可能
    • 便数が減少すれば、乗組員や地上職等を解雇可能
  • 減便は解雇の要因となりやすく反発を招く恐れがある

 ただ、路線を減便すると「乗組員や職員の解雇」に直結するため、労組などから強い反発を招くリスクがあります。

 だから、『日韓関係の悪化』を持ち出し、減便に踏み切ったのでしょう。なぜなら、労組からの反発に対しては「国民感情に反して日本便を飛ばせと言うのか」と反論できますし、会社側はコスト削減を堂々と進められるからです。まさに “渡りに船” と言えるでしょう。

 

「国内経済失速+通貨安」のダブルパンチが続く限り、韓国の航空会社にとっては厳しい

 韓国の航空会社はしばらくは苦境が続くことでしょう。まず、自国通貨が安値で推移する間は『国際線』と運行するほど国外空港の利用料が重荷となります。

 そのため、韓国を発着する路線の中でも『屈指のドル箱路線』を優先した運行スケジュールを組む必要があります。

 また、自国経済が堅調なら、国内路線に力を入れることも選択肢です。しかし、韓国の場合はムン・ジェイン政権の経済政策が逆効果を生み出しているため、国内路線をテコ入れすることは絶望的です。

 したがって、「八方ふさがりの状況に近い」と言わざるを得ないでしょう。ただ、大韓航空は『フルサービスキャリア』ですから、ビジネス客などを対象にした形で収益を確保する道は残されています。

 浮き沈みの激しい “観光路線” をコスト高を理由に減便しただけであり、日本側がナーバスな反応を示す必要はないと言えるのではないでしょうか。